コイノウタ弐 (ページ12)

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霊びてひとのこころ晴れゆくページ12

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「モヒートを、」
「かしこまりました」

夜のバーは男女が多い。
その中に私はたったひとり、お酒を飲む。
尚更自分が惨めに思えて嫌になるけれど
とにかくお酒を飲みたかった。

「すみません、隣、いいですか？」

すぐ隣で声がして顔を上げると
同い年くらいの男の人がにこっと微笑んできた。

「私の、ですか？」
「そう」
「どうぞ」
「カミカゼを。名前聞いてもいい？」
「A」
「Aちゃんな、俺は将企やから好きに呼んで」

柔らかい声の将企くんはやっぱり同い年だった。
聞き上手な彼につられて、どんどん話してしまう。

最初の結婚相手に暴力をふるわれ離婚したこと
親が勝手に結婚相手を決め再婚させられたこと
夫の実家で彼の異母兄弟と生活していたこと
異母妹だと思っていた子が実は愛人だったこと
その愛人と関係が悪くなり家を追い出されたこと

「そっか、、辛いな。飲みたくなるよな」
「重い話でごめんね？」
「誰にも言えんかったんちゃう？」
「...うん。将企くん話しやすくてつい、」

膝の上でギュッと握っていた手の上に
将企くんの手が重なった。

「なぁ、」
「ん？」
「白蓮、する？」

まだ出会って1時間だけど、
彼となら幸せな時間を過ごせる気がした。

「今どこで過ごしとるん？実家？」
「アパート借りてる」
「じゃあ分からんやろ」

不敵な笑みを浮かべる彼に笑い返すと

「彼女の分と、これで」

カウンターにお札を置いて手を繋がれて
立ち上がり、バーの外に出た。

入ってきた時と景色は変わらないはずなのに
将企くんのおかげで何もかもが輝いて見える。

◇

「A」
「ん？」
「あの時飲んどったモヒートのカクテル言葉知っとる？」

私と将企くんの左手の薬指に光る、同じ指輪。

「ううん」
「心の渇きを癒やして」
「え、」
「Aの辛そうな横顔を見て
　俺がなんとかしたいって思ったんよ」

照れ臭そうに笑う将企くんがそんな風に思って
私に声をかけたなんて知らなかった。

「じゃあ、将企くんが飲んでたのは？」
「あなたを救う」

それだけ言って抱きしめられる。

「これからは、俺と穏やかに過ごそう」

あの日、バーに行っていなければ
私はまだ暗い暗い闇の中にいただろう。

「ありがとう、将企くん」

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大正天皇のいとこ、柳原白蓮の駆け落ちした話が好きでそこから考えたのがこの話です。主人公の婚姻歴も白蓮に寄せてます。

白蓮する？は大正の流行語。私と浮気する？という遊び言葉とのこと。