コイノウタ (ページ20)

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瀬をはやみ岩にせかるる滝川のページ20

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「ほんまに行くん？」

「うん。やっぱり諦めたくないし、後悔したくないから」

「、、そうやな、Aの決めた事は応援する」

「ありがとう」

「話がある」と言われて劇場終わりにAの待つアパートに向かったら、フランスに留学すると告げられた。

「いつ行くん？」

「来週の金曜日」

何となくやけど予想はできとった。

最近笑顔も口数も少なくて、何か考えとるんやろうなと思った時に真っ先に浮かんだのがAの夢。

「私ね、いつか自分のお店を開きたいの」

　

出会ってからずっと口にしとった夢。

ケーキ屋さんでパティシエとして働くAは、レシピ通りのケーキやお菓子を作るのではなく、思いついたお菓子を作りたい、

毎日違うお菓子が並ぶショーケース、店内はパステルのグリーンのクロスを貼って、、

「将企くんの描いた絵を飾るの」

ニコニコと夢を語るAは希望に満ち溢れとって、綺麗で、大好きな…俺の宝物。

　

「ありがとう、すぐ終わったね」

「元々綺麗やったもんな」

よくクッキーを焼いとった赤いオーブンも

お菓子の材料ばかり入った冷蔵庫も

Aに似合う服がかかったラックも

狭いと言いながら2人で寝たベッドも

もうない。

カーテンのない窓から入る茜色がより寂しさを加速させた。
　

「私ね、将企くんのこと、大好きだよ」

隣で膝を抱えて座るAは今にも泣き出しそう。

「Aは、、俺の宝物」

頭に手を乗せると、堪えとった涙が流れる

「いつ帰るか分からないから、私のこと、待たないで、ね」

「気をつけて」

「ありがとう」

ギュッと握りあう手

「じゃあ、行ってきます」

本当は行かんでって言いたい

今すぐにその腕を掴んで引き戻したい

でも、それはAの為にならん。

Aの夢が叶うなら、、、精一杯手を振る。

「連絡とったら弱音吐きそうだから」

この時代でありながら連絡手段をなくした。俺とAを繋ぐものはない。

岩にぶつかって別れた水が、またその先で出会うみたいに

俺もAとまた、出会いたい。

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