コイノウタ (ページ12)

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由良のとを渡る舟人かぢを絶えページ12

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「リリーさん、好きです」

「ありがとう」

「ありがとうはいりません」

可愛がってる後輩のAと2人で飲んだ帰りに告白された。
俺の言葉を聞いて泣きそうな顔を見せられる。

「ん？誰か泣いてへん？」

劇場の出番を終えて楽屋へ向かっていると、モリシが立ち止まる。昨日の今日やし、もしかしてAやったりして…と心臓が煩くなった。

「ここやな」

泣き声の聞こえる場所を覗く

「え？！2人してどうしたん？！」

当たってまった…しかもコンビ揃って泣いとって俺の顔を見た2人の表情が強張ったのが嫌でもわかる。

「泣ける動画見て、」

間違いなく、嘘。

劇場近くの駅。

多くの人が行き交い、待ち合わせをしとる中にAが端の方で立っとるのを見つける。

声をかけようか悩んだものの
気の利いた言葉が浮かばずに諦めた時

「ごめんA、お待たせ」

スーツを着た男がAに声をかけた。
Aと同い年くらいやろうか？

「お疲れ様」

あの日の泣きそうな顔、劇場で見た泣き顔ばかりが焼き付いた目に入る、とびきりの笑顔。

いつも俺を見つけるとあの笑顔で
「リリーさん！」と駆け寄って来とったのに

最近は挨拶しかしとらんし、目も合わせてくれん。

そのAの笑顔が今、知らん男に向けられとる。

あの日からそんなに経ってないけど、、
もう俺のことは吹っ切れたん？

適当に女の子に連絡して、モヤモヤをぶつける。

「ありがとう」

駅に着くとAの声が聞こえた。

姿を探すと改札の近くにさっきのスーツの男とおって

、、、男がAを抱きしめた

その瞬間に、さっきのモヤモヤの意味がわかった。

俺、Aのこと好きなんや

抱きしめられたAと

目が、あった

男が離れて、手を振って歩き出した。

すぐに駆け寄って

「あいつ誰なん？！」

思いの外大きい声が出てしまった。

「リリーさんには関係ないです」

「関係ある」

泣きそうなAを抱きしめる

「離してください」

震える声で話すAの耳元に口を持っていく。

「Aのことが好き。やから関係あるんよ」

「ずるい、です」

舵を失った船みたいに漂っとった気持ちが、あの男が灯台の光になって無事に行き着いた。

「あいつ何者なん？」

「同級生ですよ」

「もう会ったらいかんで」

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