コイノウタ (ページ49)

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つれづれと空ぞ見らるる思ふ人ページ49

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この坂の先にあるカフェで、あのコが働いとる。

少し前にこの坂をモリシと歩いてそのカフェに行った、
仕事の打ち合わせをするために。

恋をするつもりは、なかった。

「こんにちは」

あのコは仕事やから当たり前に、
ドアを開けたモリシと続いて入った俺に笑顔で挨拶をした。

耳が熱くなるのがわかる。

打ち合わせが終わって
心ここに在らずな俺にモリシはニヤニヤする。

「あのコ可愛かったな、リリーの好きそうな」

その言葉を聞きながらあのコの顔を思い浮かべた。

ゆっくりな日の朝

仕事の合間

早く終わった日の夜

いつ行ってもあのコはおって笑顔で俺を迎えた。

そして、それはこの恋みたいに突然やってきた。

「いつもの、でよろしかったですか？」

「え？」

「ホットコーヒーとタマゴサンド」

いつも召し上がって下さっているので覚えちゃいました
そう微笑みかけられて、あの日みたいに耳が熱くなる。

「お待たせしました」

疲れた心を解き放つような
あったかいまろやかなコーヒー

白いふわふわなパンの間に
元気をくれる鮮やかな黄色のタマゴが挟まったサンドイッチ

「これ食べたら頑張ろって思うんすよ」

「そう言って頂けるの、とっても幸せです」

「いつもお姉さんが作ってるんすか？」

「A、です。私のお店ですから」

思わぬ収穫。

名前、知れた。

この俺が、何回も通い詰めてようやく名前を
しかも自分から聞いてへん

俺を臆病にする程

好きにさせたあのコは

今日もこの坂の先の

あのカフェで笑っとる

モンタージュ / 槇原敬之

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