軌跡を辿ると ページ23
C.side
伊「……はあ」
…6回目。
まだ陽は上ったばかり。
そろそろ街に活気が出てくる時間帯にして、目の前の彼はため息を既に6回も吐いていた。
伊野ちゃんの心情に合わせて、煮詰める鍋の色はどんよりとした緑色からどんよりとした紫色へ。
さらには真っ黒という毒々しい色に次々変化していく。
知「そんなに寂しい?」
僕の問いかけに伊野ちゃんは曖昧に笑った。
伊「寂しいよりかは不安の方が大きいかな」
知「涼介"も"、居なくなるかもしれないって?」
伊「……うん」
生まれてからずっと1人だった伊野ちゃんは、誰よりも繊細な心を持っていて、どの英雄よりも優しい心を持っている。
何度も裏切りを経験し、何度も出会いと別れを繰り返してきた彼は。
きっと誰にも理解出来ないくらい大きな傷を持っている。
そして僕と伊野ちゃんしか知らない、重たい枷に繋がれている。
臆病で、不器用で、真面目な君に重たい枷を付けてしまったのは紛れもなく僕自身で。
呪縛から解放しようと思ったら、会いに行った伊野ちゃんは笑っていた。
幸せそうならいいと思った。
涼介と一緒に毎日楽しそうに笑っている君を見て、もう大丈夫だと思った。
君に会いに行くまでは自責の念に苛まれていた僕の心も少しだけ軽くなった。
無責任だとは思ったけど、僕が君との"約束"をどうしても守りたくて。
図々しくも引っ付きまわっている。
ねえ、僕が本当のことを言ったら君はもっと幸せになれる?
僕の事を受け入れてくれる?
君の生きた何百年という軌跡に、僕のカケラはまだあるのかな。
枷が外れないまま、身動きが取れていないのはきっと君じゃなくて僕の方だ。
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第六話【軌跡を辿ると】完
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作者名:アイノア・リカ | 作成日時:2022年1月16日 12時