4章1話 無色の彼女 ページ25
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───10歳の時、私は4ヶ月間の家出をした。
私のことを散々ゴウモンすると思った両親は、ただ私を抱き締めただけだった。
何だか母は、最後に見た時よりも頬が痩けている気がした。
逆に父は、最後に見た時よりも、少し余計な肉が増えている気がした。
たったそれだけの事で、私は今まで知らなかった両親という「生物」を、「人間」として認識してしまった。
それからは、母という「人間」がよく見えた。自分にも他人にも厳しく、とりわけ私にはとても厳しい。
豪胆な極妻のようなイメージの女だが、意外と繊細で、虫が何よりも苦手。
しかし演劇で虫に触れる際には、心を押し殺して必死の、迫真の演技を見せる。
ひとたび「入って」しまえば、虫が嫌いだった事すら忘れる私と違って、母は、「入りたくても入れない」。
「どうしてあの子の[[rb:才能 > ちから]]が私には無かったの」
と啜り泣く母と、それを傍らで慰める使用人を見てしまった事もある。
「役」に極限までのめり込んでしまうのがもし、私ではなく母だったら。
彼女は喜んで、その才能を使いこなしたのだろうか。
「どうしてあの子は演じるのを嫌がるの」
と、苦しげに頭を抱える母を、見てしまった事もあった。
「頑張らないとできないが、努力して大成功した」母と、「頑張らなくてもできるが、その才能を生かすことを拒む」私。
───歯がゆいのだろう。
───苦しいのだろう。
母は育ちが良くない。
自由に立てる舞台どころか、練習できる場所さえ、不十分だったはずの幼少期──。
私の状況とは、ほぼ真逆ですらあった。私の苦しみを母は理解できないように、私も母の苦しみを本当の意味で理解することは無い。
それでも、はじめはただ死んで欲しかっただけの母親に対して、私はいつの間にか、「この母親と幸せな家族になりたい」、と感じてしまうようになっていたのだ。
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あめ。(プロフ) - 推しは神さん» うああ本当にありがたいお言葉です……!! イルミとの関係や家の部分は1番心がこもっている部分なので嬉しいです。すごくやる気が出ました……ありがとうございます……!!! (2021年8月4日 21時) (レス) id: 9321659db3 (このIDを非表示/違反報告)
推しは神 - とても面白いです!イルミとの関係や家のことなど続きが気になります!!更新頑張ってください!!応援してます!! (2021年8月3日 17時) (レス) id: d035d348ec (このIDを非表示/違反報告)
あめ。(プロフ) - カナデさん» でたぁー、と一瞬の退場、という文面を見て、思わず笑っちゃいました。笑笑 嬉しいです、ありがとうございます!! 更新頑張っていきます! (2021年6月29日 22時) (レス) id: 9321659db3 (このIDを非表示/違反報告)
カナデ(プロフ) - で、でたぁー!俺じゃなきゃ見逃しちゃうね!!でも一瞬の退場!笑。最近めっちゃハマってます。更新頑張ってください! (2021年6月29日 16時) (レス) id: d6342d80f2 (このIDを非表示/違反報告)
あめ。(プロフ) - 赤とんぼさん» アアア凄く嬉しいです……!! ありがとうございます。更新頑張ります!! (2021年6月23日 18時) (レス) id: 9321659db3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あめ。 | 作成日時:2021年6月15日 23時