Paranoia【短編集】３

甘いサンタ【片寄涼太】 ページ31

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『いらっしゃいませー』


「すみません、予約してた杉下です」

『はい杉下様ですね、少々お待ちください』




ケーキ屋さんの最も忙しい日というのは、もちろんクリスマスだ。

特にイブはホールケーキの予約がこれでもかっていうくらいたくさん入っているし、カップルなどの場合はカットケーキを買いに来られるので、それもいつもより多めに作っておかなければならない。


パティシエもレジ業務の方も、この日は本当にバタバタで大忙しだ。




「…あのぉ、ケーキ良いですか？」

『はい、どうぞ』




この女性もきっと、イブである今夜は隣にいる男性と甘い時間を過ごすのだろう。

あぁ良いなー……、私も彼氏がほしい。




この仕事をしていると、クリスマスは彼氏と過ごす！なんて事は非常に難しい。

特にパティシエとレジ業務の両方をしている私は、まだ夜中だと言っても過言ではないくらいの早朝からケーキを作り始め、店がオープンしたらしたでレジの方が忙しい。


そしてカットケーキを追加する為また厨房に立たなければならないし、夕方近くなると更にレジが混雑してくるので再びそちらに回ったりもする。


もう腕やら腰やら表情筋やら……、体のあちこちが痛くなって辛いったりゃありゃしない。

好きでこの仕事に就いたが、イベント事がある日は本当に休みたくて仕方がないのだ←








カラン…






『いらっしゃいま……せー…』




そんな中夜の８時を過ぎ、お客さんの出入りがパタッと途絶えた頃。

この感じだとカットケーキが余るし、何個か貰って家で１人寂しくクリスマス気分を味わおうかな、なんてケーキを眺めながら考えているところに、小さく鐘が鳴り響きなから店の扉が開いた。


中へ入ってきたのは今年になってからほぼ毎月ケーキを買いに来てくれる人で、物凄く背が高いモデル体型で子犬みたいな可愛い顔をしている、“片寄涼太”という名前の男性。


あまりにもよく来てくれるから、お互い名前で呼び合って軽く雑談するくらいの仲なのだ。




『いらっしゃいませ、涼太くん』

涼「はい、いらっしゃしました(笑)」




……そして、私が密かに想いを寄せる人。

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