Paranoia【短編集】２

続：終わりなき哀しみ【今市隆二】 ページ44

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12月24日。




『………はぁ…』




日が沈んで、空という大きなキャンパスにオレンジ色と紫色が満遍なく塗り広げられた頃、私はスマホの画面を見ながら大きな溜め息をついた。

クリスマスイブの今日は私の23歳の誕生日だが、現在OLの私は天皇誕生日である昨日から冬休みだなんて事はあるわけがなく、今も社長室の中でパソコンと向き合っている。


もうすぐ定時になるが、まだ仕事は終わりそうもない。




陣「…どうしたのAちゃん、そんな溜め息ついて？誕生日くらい休ませてくれよってか(笑)」


『いえいえ、そんな事思ってませんよ(笑)』

陣「じゃあどうした？彼氏に早く帰って来いって怒られてんの？」


『え、なんで分かったんですか』




本当に陣さんは、昔から勘が良すぎるというか私の事はなんでもお見通しというか…。




『あの人本当は23日の夜私の家に来るつもりだったらしいんですけど、全然仕事が終わらなくて迷惑なことに夜中の３時なんかに来たんです…』


陣「うわっ、それはきつい(笑)」

『ちょっと陣さん、笑い事じゃないですって！まぁ彼も仕事で疲れてたんで家に来るなりすぐ寝てくれたから良かったんですけどね』


陣「ふーん。それで今日彼は仕事？」

『それが今日も明日も休みらしいんですよ。起きたら私がいないから、こんな日にどこ行ってんの！ってLINEが』

陣「こんな日って……、私の誕生日が祝日になるわけないでしょ！こっちは仕事だよ！って感じだね(笑)」


『ホントそれ…』

陣「…あー、それであれか。このままだと誕生日が終わっちゃうから早退してでも帰ってこいって言われてるのか」


『そう、その通りッ！』




私の大きな溜め息の原因は、今まさに陣さんが言ったような内容のLINEが昼を過ぎてから何度も送られてくるからだ。

“初めて一緒に過ごせると思っていたAの誕生日とクリスマスイブを、お前は彼氏の俺ではなく陣さんとかいう奴と過ごすつもりなのか？”だなんて、意味不明な怒りが文字に込められている。


彼はまだ陣さんの事をまったく信用していないらしい。




陣「じゃあ、今日は中途半端でも良いから定時で帰りな？」

『いえ、彼の我が儘に付き合ってばっかりはいられないので』


陣「…でも、さすがに彼かわいそうだよ。仕事は家に持ち帰ってやってくれれば良いから明日もゆっくり彼と過ごしてあげて」


『……陣さん…、ありがとうございます』




あぁ……。

やっぱり陣さんは神様みたいな人だ。

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