カ ク シ 5 ページ45
土方side
·
『どうぞ』
差し出されたのは、マヨネーズのイヤホンジャック。
『ずっと土方くんには相談乗ってもらってたから、その感謝!』
ぴかぴかと音が鳴るような満面の笑み。
俺はなんだか泣きそうになりながら、イヤホンジャックを受け取り、早速スマホに取りつけた。
「ありがとよ。大事に使う」
『よかった!』
Aはじゃあ沖田くんのところに行ってきます、と照れたように背を向ける。そのまま小走りで総悟のもとへ。
総悟もAも、周りで冷やかすクラスメイト達も笑顔で。
__なんてお似合い。
イヤホンジャックに触りながら、ぼんやりと眺める。
「第1カップル成立だな」
やる気の無い声が後ろで聞こえた。振り返ると、担任の坂田銀八が俺の隣にやってきていた。
「そういうもんだろ、修学旅行は」
銀八はしばらく口を結んでいたかと思うと、視線をAたちにやったまま呟いた。
「お前さあ、かくれんぼってわかる?」
「…ガキの遊びだろ、馬鹿にしてんのか」
「先生に対するその態度やめなさい」
その忠告は無視することにして、口の中で言葉を反芻する。
かくれんぼ。ずっと胸の中にあった言葉。
「じゃあさ、かくれんぼの漢字は知ってるか」
__ああ、こいつにはお見通しだったのか。
普段はロクに役にも立たないクソ担任の癖に。
「知るか」
「あっそ」
銀八はタバコもといキャンディをいじり、そこで初めて俺の目を見た。
「まあさ。俺くれぇの年になっても、かくれんぼには惑わされんだ。お前らなんてもっとそうだろ」
銀八はにっと笑い、続ける。
「教壇からクラス見てるとさぁ、分かっちまうんだよな。誰が誰を見てるか」
俺がAを見ていることも、きっと含まれているんだろう。
銀八は俺の肩に手を置いて、今のうちに傷ついとけ、と笑みを深めた。
俺が言葉を返せない間に、A達のところに「なになにカップル?あついねー」と言いながら合流する。
どうやら、かくれんぼの呪縛からは大人になっても解き放たれないらしい。
こうなったらとことん引きずってやろうじゃないか。
やけくそに決意する俺の頬を、赤くなった葉と共に風が通り抜けて行った。
***
かくれんぼ。
漢字で書けば、隠恋慕。
隠れて恋い慕う、俺にぴったりの言葉。
いつか誰かに見つけてもらえることを夢見て、一人隠し続ける恋心。
ああ、なんて馬鹿らしくて素晴らしい。
隠恋慕の影に惚れたまま、この季節を終えたのは、また別の話。
__カ ク シ 終__
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みるくれーぷあいす(プロフ) - 鈴神さん» 嬉しすぎるコメントありがとうございます!これからも鈴神さんにそう思っていただけるよう頑張ります!よろしくお願いします。 (2019年8月24日 13時) (レス) id: 0de76de774 (このIDを非表示/違反報告)
鈴神(プロフ) - こんにちは!突然ごめんなさい(汗 作品読ませて頂いたんですが、一人一人の気持ちがとても丁寧に書かれていて一つ一つの話にすごく惹かれました!!ほんとに素敵なお話ばかりなのでこれからも応援してます!頑張ってください!! (2019年8月24日 1時) (レス) id: de3968cf62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みるくれーぷあいす | 作成日時:2019年8月13日 1時