ア サ ヒ 4 ページ20
高杉side
·
「…水橋?」
苛つきが一気に冷める。
『…あ、ごめん、こんな時間に』
「まさか呼び出しか?」
にしてもまだ太陽も登っていないような早朝に呼び出すのか。わざわざどうして?
『覚えててくれたんだ。うん、呼び出し』
今は夏休み真っ只中の七月末。彼女は発言通りに呼び出してきたわけだ。
『あの、ちょっと来て欲しいところがあって』
俺と彼女の家はそれなりに近所だということが最近判明したので、そんな離れたところではないだろう。予想通り、彼女の来て欲しいところとは、近所にある小さな丘だった。昼間はよく小学生の遊び場になっている。
『ごめんね、無理しなくて良__』
「わかった、今から行く」
行かないわけがない、とまで思ったくせに、未だに俺は彼女への恋心を認めていなかった。ありがとう、という彼女の返事で電話を切って、適当にTシャツとデニムパンツに着替え、パーカーを羽織る。スマホと鍵を持って家を出る。
『高杉くん』
丘まで少し駆け足で向かえば、水橋が立って待っていた。いつもとは違う、なんとも微妙な笑顔で。
「…はよ」
『おはよう、丘、登ろう』
気づいていたのに、また俺は聞かなかった。
無言で丘のてっぺんを目指す彼女について行く。空は少し白み始めていて、水橋の輪郭をぼやけさせていた。
『あのね、日の出を見たくて』
「日の出?」
『うん、高杉くんと、見たかった』
現金にも俺の心臓は少しずつ早鐘を打ち始めている。早朝ということもあるし、彼女と特別な環境にふたりきりということもある。
「…へえ」
そっけなく返事をして、丘を登りきる。当たり前だが頂上は少し眺めが良い。
『東はこっちかな、ほら、あそこ』
タイミングを計ったかのように、光が届いた。
ビルの隙間から、まだ橙色の朝日が登っている。朝日を取り巻くように広がる黄色と桃色、まだ起きていないとでもいいたげな濃紺。
『きれい』
彼女の横顔にも、光がさしていた。まるで神聖なものでも見ているかのような気分になる。
「…そうだな」
水橋は笑っていたけれど、今にも泣きそうにも見えた。何かを寂しがっているようにも見えた。とても、綺麗だった。
『…良かった、見られて』
水橋はぽつりと言葉を紡ぐ。その表情と声音に目が離せなくなる。絶対に、今日の水橋は変だ。笑顔が揺れている。睫毛が震えている。
「A」
思わず、声に出た。彼女は驚いたようにこちらを見る。俺も自分に驚いた。
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みるくれーぷあいす(プロフ) - 鈴神さん» 嬉しすぎるコメントありがとうございます!これからも鈴神さんにそう思っていただけるよう頑張ります!よろしくお願いします。 (2019年8月24日 13時) (レス) id: 0de76de774 (このIDを非表示/違反報告)
鈴神(プロフ) - こんにちは!突然ごめんなさい(汗 作品読ませて頂いたんですが、一人一人の気持ちがとても丁寧に書かれていて一つ一つの話にすごく惹かれました!!ほんとに素敵なお話ばかりなのでこれからも応援してます!頑張ってください!! (2019年8月24日 1時) (レス) id: de3968cf62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みるくれーぷあいす | 作成日時:2019年8月13日 1時