incompetent-悲しみの構図- (ページ25)

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彼女を見送って家に帰れば母さんはニヤニヤしながら感想を求めてきた
別に普通だよ、と返せばつまんないなあと大袈裟なくらい落胆した

部屋に入って携帯を見れば通知が一件

A今日はありがとう

頬が緩んだのも束の間ドアをノックする音

「母さんしつこいよ」

そう言えば遠慮がちにドアが開いた

「デート、だったんだよな。」

母さんじゃないその声に驚いて顔を上げれば親父が顔をのぞかせていた

「…ちがうよ。」

「そっか」

目の前の人は嬉しそうな顔でそう言うとテーブルの上に紙を2枚置いた

「これ、もらったんだけど父さん仕事で行けそうになくて。北斗使ってくれないか？」

覗けば水族館のチケットだった

「別に気使わなくていいよ」

「気なんか使ってないよ。北斗に今を楽しんで欲しいんだ」

行ったら感想聞かせてくれよ、そう言うとドアの方に向かっていく

「あのさ」

立ち止まった親父が不思議そうに振り返る

「…ありがと。でも、デートじゃないから」

なんか恥ずかしくて顔を合わせずにお礼を言えば

「わかったよ。」

嬉しそうな声が聞こえて静かにドアが閉まった。