incompetent-悲しみの構図- (ページ24)

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約束した途端花火が打ち上がる
同じタイミングで空を見上げた俺たちの目の前に広がったのは大きくて綺麗な花火

となりから彼女の嬉しそうな声が聞こえて俺の頬も緩む

止まる事なく何発も上がる花火に周りの人はみんな釘付けだ

「ねえ！ハートだよハート！…あ！星だ！」

子どものように肩を叩いて大袈裟に騒ぐ彼女

「あ！写真撮らなきゃ写真！」

思い出したように携帯を取り出した彼女は花火ではなく顔を近づけてきてツーショットを撮った

確認している画面を覗けば笑顔の彼女と真顔の俺

「いい感じ！」

どこがいい感じなんだろうか

「俺笑ってないけど」

「いつも通りじゃん」

写りに不安のある俺を他所に彼女はまた花火に集中しだす

まあいいかと諦めて俺も空を見上げた

最後の一発が打ち上がって消えると彼女は残念そうに
終わっちゃったーと言った

俺も顔には出さないけど同じ気持ちだった

「ねえ、このまま2人で駆け落ちしない？」

「は？」

思いがけない言葉に固まる

「ははは！嘘だよ。何その顔」

彼女は立ち上がって地面に着いていた場所を払いながら笑う

思いがけない言葉に驚いて俺はまだ立ち上がらずに固まっていた

「いや、駆け落ちって…」

「良い子は帰ろう。束の間の休憩だったけど、エネルギーチャージできたし。」

そう言って差し伸べられた手を素直に取って立ち上がると明日からまた頑張るぞー！と伸びをしながら彼女は言った

夜も遅かったから彼女を家まで送る事にした
アパートの前に着けばありがとうと彼女は言った

「楽しかったね」

「そうだな」

「君が一緒に花火大会に行ってくれると思わなかったよ」

そんな他愛もない話をしているとアパートから誰かが出てくる

「こんな時間まで仕事なんて働き者だな」

振り返った彼女がお父さん…と呟いたのを俺は聞き逃さなかった

「容姿に恵まれててよかったな。男の相手するだけで金もらえるんだから。」

そういうと夜道に消えていった

「今日バイトって言ってたから、同伴と勘違いしてるんだよ」

そうなんだ、と言いながら彼女が勤めていると言っていたバイトを思い出す

前から彼女が水商売をしているとこは知っていた
前は何とも思わなかったはずの俺の中には確かに嫌悪感があった

それはきっと彼女にではなくあの父親に