きっとやくそく。─２─

５８─YH side─ ページ9

───────…




“...分かるよね？”


俺の唇を塞いでそう言った
Aさんの表情と声色は


痛々しい位苦しそうに、


そして愛おしそうに


俺を想っているものだった。



俺以上に、俺の先のことを考える
Aさんの優しさを感じて、

自分の“覚悟”の甘さに気付いた。





それならいっそこの俺の心、


グラグラと燃えて火傷する位…


鋭利なナイフで底の底まで突き刺して
ズタズタになる位、


Aさんとの思い出を刻もう…



Aさんの心にも傷を付けると
分かっていて、
そしてAさんは断らないと
分かっていながら、

その優しさに甘えてお願いをした。


「この旅行中だけで良いから、僕達が本当にしたい思い出作りたいです。」


『...うん、分かった。そうしよう。』


俺がそう言えば、全てを理解した
ように切なげに微笑むAさんに
俺はキスをした。


何度も、何度も、、
それが深くなれば深くなるほどに
焼けただれて痛みが増す俺の心。


愛しい…


愛しい愛しい愛しい…


その気持ちだけが支配する俺の心臓。



そして俺達は今日１日、
たくさんの思い出を作った。

笑顔だけの、
涙なんか似合わない…


そんなキラキラ光るような、
いつだって目を瞑れば
滲む虹色の絵の具のような、



そんな美しい俺達だけの世界を
生き急ぐように、

今日で世界が終わっても後悔
しないように、


笑顔だけを積み重ねた──…



『ふぅ、今日は楽しかったね♪』
「また来ましょう♪」

『うんっ！そうだねっ。』
「約束ですっ！」


２度目のAさんとの約束は、
初めて涙を流さないもので、

笑顔で指切りをするけれど…

本当は、“また”なんか来る事はない
ことを分かっている…


そんな切なくて非情な約束。



この渡月橋と書かれた橋を渡れば
旅館に着いてしまう。

俺達の“一生”が終わってしまう。


込み上げる気持ちで、
握る手に力が入るけど…


『...がんばってね。』
「..はいっ。」


未来に向かって前を向くことしか
許されない俺達は、
一度も振り返ることなく、
その橋を渡りきり...


───────────…





──────…





──…



母『もう！早く帰ってらっしゃいね？！』
『ふふっ、だめでしょ帰って来ちゃ(笑)』

父『おーいっ！そろそろ出発するぞぉお？♪』


「合宿が終わったらまた帰ってきます♪日本の家族の為にもぼく、頑張ってきます！」




Aさんの笑顔に見送られて、
夢への一歩を踏み出した。

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