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光月庵の次期当主である椿の朝は早い。
毎朝、5時前には着替えを済ませて部屋から出ていく。
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今日もいつも通りの時間に目を覚ました彼は、
布団から起き上がり、せっせと身支度を始める。
私は布団の隙間から、そんな彼の様子を見つめていた。
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椿「…おい。」
「……えっ…、」
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不意に声をかけられて間抜けな声が出た。
だって、2人きりの時に、
椿の方から声をかけてくるなんて。
てっきり今日も何も言わずに部屋から出ていくと思ったのに。
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椿「起きてるんだろ。」
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寝たフリしようかと思ったけど、
声を上げてしまってからじゃもう遅い。
布団で顔を半分隠しながら、小さく“…なに” と聞き返せば、
彼が私の方に顔を向けるから、
私は咄嗟に彼から視線を外した。
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椿「お前……、昨日寝てないだろ。」
「え…、なんで…、」
椿「寝息が聞こえなかった。」
「…」
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椿「ただでさえ体力ないんだから眠らなきゃ体を壊す。
まだ早いからもう少し眠っておけ。」
「……………うん。」
.
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…ああ、嫌だ。
ぶっきらぼうなその言葉にすら心臓がうるさく鳴る。
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どれだけ望んで、期待しても、
この人は私に情なんてないのに。
ただただ、決められたことだから
一緒にいてくれるだけなのに。
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椿「勘違いするな、また倒れられたら迷惑なだけだ。」
「……してない。…分かってる。」
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そんなふうに釘を刺さなくても、
分かってるよ、痛いくらい。
椿の運命の人は私なんかじゃないことも、
椿はこれっぽっちも私を見ていないことも、
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彼の興味はいつだって、
この光月庵と、和菓子と、
……それから、
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“さくら” と呼ばれる、
15年前に出会ったあの女の子にしかないってことも。
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紙兎(プロフ) - はなやさん» 椿は主人公が自分のことを好いているとは微塵も気づいていないので、「今は体だけでも、いつかは彼女の心まで自分のものにしたい…」と願っているのです!聞いてくださってありがとうございました(´˘`*) (2020年10月12日 22時) (レス) id: 4f2a78c08e (このIDを非表示/違反報告)
はなや - わぁ。素敵。泣美しい...変な質問で申し訳ないのですが、キスマークの所の話でつまりは2人はシたってことですよね...?なのに38辺りではいつか身も心も...って言っていましたがどういうことか教えていただきたいです、すみません(><) (2020年10月12日 1時) (レス) id: f5341d42e0 (このIDを非表示/違反報告)
紙兎(プロフ) - サユさん» はじめまして!お仲間がいらっしゃって嬉しいです、ドラマは終わってしまいましたがお互い話を完結できるように頑張りましょう1 (2020年10月1日 14時) (レス) id: d9da71655b (このIDを非表示/違反報告)
サユ(プロフ) - こんばんわ★初めまして!紙兎さんの作品初めて読みまして。。。面白くて一気に読んでしまいました!話の展開とか自分の作品と違っていて面白いなーって(*^^*)あ、自分も今【わたどう】をテーマに作成していまして。。。更新頑張って下さい!応援してます! (2020年9月29日 22時) (レス) id: ff7a33a461 (このIDを非表示/違反報告)
紙兎(プロフ) - れさん» どうぞどうぞ書いてください、私も見てみたいです!(´˘`*) (2020年9月24日 23時) (レス) id: 4f2a78c08e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紙兎 | 作成日時:2020年8月14日 9時