白雪姫は夢を見る Ⅲ (ページ49)

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90-1.素直になれないページ49

渡辺side

　いつもより目を開けるのにかなり苦労した．

　頭は痛いし体はだるいし、この何もできそうに無い感じ．

　重い体を必死に動かして、リビングの机に置いてある体温計に手を伸ばす．

渡辺「うわ、38.9度…」

　想像以上の高熱に、俺はため息をついた．

　マネージャーに休みの連絡をして、ベッドに全身を預ける．

　体にかかる重力がいつもの10倍くらいある気がする．

　腹は減ってるけど、それより動きたくないっていう気持ちの方が勝っている．

　俺はまた目を閉じて、今日一日が終わるのをボーっと待つことにした．

　…昼までは．

　“ピンポーン”

　インターホンの音で目が覚めた．

　誰かと思ってモニターを見ると、そこにはAが映っていて．

　声を出すことすら面倒くさくて、俺は何も言わずにエントランスのロックを開けて、そのまま玄関の鍵も開けておく．

　何分も経たないうちに、Aが中に入ってきた．

　「翔太くん、大丈夫？」

　Aが来てくれたのはすごく嬉しいんだけど、寝起きかつ体調不良の俺はイライラしていたみたいで．

渡辺「なんで来たの」

　「この後雨予報だったし、午後のお仕事が無くなったんだ．

　それで翔太くんが体調悪いって聞いたから…」

　…多分、イライラしているのが顔に出ている気がする．

　Aが俺の様子をチラチラと伺うように見ているから．

　「おかゆとかお腹の通りがいいものを作ろうと思ってるんだけど…」

渡辺「…好きにすれば」

　そう言って俺は寝室にこもった．

　ベッドに横になって、えげつないほどの後悔をする．

　このドアの向こうで、Aは今どんな顔をしているだろうか．

　Aはせっかく来てくれたのに、俺は冷たくしてしまった．

　俺はAのことが大好きで、大切にしたかったはずなのに…

　さっきはそれすら考える余裕が無かった．

　また俺はベッドに横になって、気づいたら眠ってしまっていた．

　またしばらくして時計を見たら、もう18時になっていて．

　中途半端な時間に起きてしまったことにまた機嫌が悪くなりそうだ．

　俺は寝室を出て、リビングに向かう．

　机の上におかゆが準備されていて、その隣には「温めて食べてね」とのメモが置かれていた．

　側には解熱剤やスポーツドリンク、俺の好きなケーキも置いてあった．

　俺はそれを見た瞬間に涙が溢れた．