白雪姫は夢を見る Ⅲ (ページ28)

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77.傘ページ28

向井side

　“ポツッ…”

向井「…ん？」

　鼻のてっぺんに何か当たった気がして、俺は空を見上げる．

　まだ昼間だというのに、雲が灰色に染まって小さな粒を降らし始めていた．

　マズイと思って走り始めた頃にはもう遅くて、俺は大雨に打たれる羽目になってしまった．

向井「最悪や…！」

　これからAの家にお邪魔させてもらう予定なのに…

　雨宿りできる場所も見つからなくて、すぐにびしょ濡れになってしまった．

向井「…このまま行くかぁ…」

　Aには迷惑をかけるかもしれんけど、お礼に何か作ってあげたら許してくれるやろ…

　俺は走ることさえ諦めて、Aの家へ歩き始めた．

　歩道の信号が赤になって立ち止まった時、俺の周りの雨が止んだような気がした．

　おかしいと思って上を見上げると、水色のシンプルなデザインの傘が雨を防いでいた．

　「こーじくん、風邪ひいちゃうよ？」

　大好きな人の声がして、俺は後ろを振り返る．

　片方の腕を伸ばして俺に傘をさすA．

　もう片方には食材がたくさん入って重そうなビニール袋を持っている．

　自分にさす傘が無いから、Aも少し髪や服が濡れとった．

　「こーじくんにご飯作るために買い出し行ってたんだ」

　笑ってビニール袋を掲げるA．

　俺が濡れないように傘をさしたまま、隣に移動してきた．

　身長差があるから少し背伸びをしていて、プルプルしている．

　「大丈夫？濡れちゃってて寒いよね？」

　Aが上着のポケットからハンカチを取り出して、俺の濡れた顔や髪を軽く拭いてくれる．

向井「あんがと、A」

　「お礼なんていらないよ．

　それより、お家に着いたらすぐお風呂入ってあったまってね？」

向井「…Aがあっためてくれへんの？」

　「え？」

　俺は隣に立つAを自分のもとへ引き寄せて、腕の中に収めた．

　「こーじくん、風邪ひいちゃうって」

　トンッと俺の胸を押して離れるA．

　今日のAはいつもと違って大人な感じがする．

　「こーじくん、これ持ってくれる？」

　Aが俺にビニール袋を渡してきた．

　Aは重そうにしていたけど、結構軽いもんやった．

　片手が空いたAが、濡れて冷たい俺の手をギュッと握る．

　「今はこれで我慢して？」

向井「…ん」

　俺もAの温かい手をギュッと握り返した．