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『……なかむ先輩』
Nakamuさん。
このホテルのベルマンとして働いている人。
ずーっと、昔からここにいる。私の先輩だ。
＿＿＿＿＿＿＿＿あれ？
なんで、彼のこと…
すぐに思い出せたんだろう。
…まあ、いいや。どうせ、意味ないんだから。
『えっと…何か、御用でしょうか？』
「ああ、そこでぼーっとされてましたので…」
大丈夫かな、と思いまして。
そう言い、彼はふわりと微笑んだ。
知ってるよ。その心配も嘘なんだ。
ああ、
これは、
お互い、本心を悟られないように。
お互いが、その心に探りを入れる。
私も彼に、にっこりと笑顔を貼り、
大丈夫です、と答える。
彼もまた、安心したように笑う。
疑いは、また増えてしまったようだ。
偽りだらけの空間。
お互いが本音に蓋をして。
いつから、だったっけなあ。
＿＿＿＿＿＿＿＿この、嫌いな雰囲気は。
どんよりとした暗い雲が心を覆う。
どうしても、考えることが全て黒に染まって。
＿＿＿＿＿＿＿＿いや、そもそも。私は何故、
「ああ、そうだ！」
彼の少し大きめの明るい声で、思考が戻る。
いけない。この場での油断は禁物。
彼の顔を見た。
はじめて見た、彼の顔。その瞳。
＿＿＿＿＿＿スカイブルーの瞳。
それはまるで宇宙のように、きらきらと煌めく。
その瞳は、心の全てを見透かしているようで。
否、彼は恐ろしいから、もしかしたら
私の心も読めているのかもしれない。
「5名のお客様の案内を
お願いしても宜しいでしょうか？」
瞳の中の星々が、ゆらゆらと揺れた。
綺麗だ、とても。
このホテルで働いているとは思えない。
＿＿＿＿＿＿＿彼は、どんな罪を犯したのだろう。
でも、私はあの人を愛している。
だから、あの人が1番きれい、なんだ。
あの人以外に、惹かれることはない、から。
自分の心に、蓋をつけた。
もう二度と、開かないように。
『…ええ、構いません』
「有難うございます、では、私はこれで」
彼はまたふわりと微笑むと、
くるりと向きを変えて立ち去った。
私は、あの人に声をかける。
『…あれで、良かった？』
ヤツも片付けよう。
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作者名：さくさくパンダ | 作成日時：2023年8月26日 13時
