救済思想 (ページ19)

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料理人の鬼胎ページ19

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料理人 side

厨房の鍵を握り締めて、食堂を後にする。

……俺の名前はシャークんだ。
このホテルで、料理人として働いていた…はず。

詳しいことは自分でもよくわからない。
おかしいほどに、記憶がすっぽりと抜け落ちている。

生憎、これしか覚えていないんだよな…
これが記憶喪失ってヤツか……？

「…………」

「………広い…」

ぽつり。心の声が言葉となって紡がれた。

大理石で作られた柱。
宝石のように光る、見るからに高そうなシャンデリア。
浅葱色のカーペットは、とめどなく続いていた。

見るからに高級ホテル。

こんな広いところで働いてたのなら、
一生忘れられない思い出となるだろう。

…俺はなんで忘れてるんだか。馬鹿なのか。

つまらないことを考えながら、
視線を動かして、辺りを見回す。

「マジで誰もいないじゃん…」

俺の声が、廊下に大きく響いた。

はぁ、と大きなため息をついた。
どうせ誰も見てないのだから、バレる心配もない。

……だが、流石にここまでいないと、少し不安には思える。

「これ、エレベーター…？」

俺の身長よりはるかに大きい扉を見上げる。
俺が今いるのは、8階のようだ。

ボタンを押すと、赤く点灯して扉が開いた。

「…ぁ」

……人。人だ。

人が、いる。

真っ黒な服で、肌を隠していて、
その上にさらに白衣を纏っている。

顔は、俯かれているため見えなかった。
毛先が、ふわりと揺らぐ。

『……』

暫し流れる、無言な時間。
しばらくして、その人は俯いていた顔を上げた。

そして、俺のことをまっすぐと見つめる。

＿＿＿＿＿＿否。俺のことなんて見てない。

…整った顔立ちだった。まるで、人形みたいに。

白雪のように白い肌。林檎のように赤い唇。
白雪姫みたいだ。これが、美しいというものなのか。

…でも、彼女の瞳はどこか濁っていた。

俺のことなんか見てなくて、
もっと別のどこかを見ていて。

あまりの美しさに、何かを感じた。
恐怖？感動？

……違う。そんなやわなものじゃない。

これは、狂気だ。
誰かに操られているのではないかと思うほどに。

明らかにおかしい。常人のする瞳じゃない。

『…あの…大丈夫、でしょうか？』

大変長らくお待たせ致しました…