救済思想 (ページ16)

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さて、まずは彼らから解放しようか。
縛った時からだいぶ時間が経っているから、もう起きているだろう。

軽快に靴音を響かせながら、階段を登り切る。

そして、足を止めた。

左右に、道が分かれていたから。
どちらに、行くべきだろう。

記憶を辿る。絡まった糸を、一つ一つ解いていく。

私が罪を犯した、あの時の記憶を。
私が完全に黒へ染まった、あの時の記憶を。

………何も、思い出せない。
彼らがいる部屋……どこにあったっけ？

場所だけが、思い出せない。
犯した罪は、こんなにも鮮明に思い出せるのに。

＿＿＿＿＿＿＿思い出せない、はずなんだけどな。

私の体は、迷うことなく進み続けていた。

それは、まるで操り人形のように。
けれど、体は好きなように動かせる。

変な感じ。なんだか擽ったい。

私は、何号室に向かっているんだろう。
それすらもわからないまま、体だけが動く。

*……237号室。アイツらの場所だ。

聞こえたんだ。

大好きで、私だけの愛しいあの人の声。
神のように、私をどこまでも導いてくれるあの人の声。

くるりと体ごと回して後ろを振り返るも、
そこには誰もいない。

黒い風が、心身を吹き抜ける。

あの人の姿がない。
あの人の微笑みがない。

……愛想、尽かされちゃったのかな。
いや、そんなはずない。ありえない。

あの人だけは私を認めてくれたのだから。
あの人だけは私を愛してくれたのだから。

あの人は、私を……救ってくれたのだから。

本当に?

違う。本当なの。

私が愛を捧げたあの人が、
愛を返してくれたあの人が、そんなはずない。

そう、思い込ませる。
そうでもしないと、壊れてしまいそうだったから。

荒ぶる心を鎮めて、また体を動かす。
237号室へと、迷わず進んで。

＿＿＿＿＿＿＿その後、私は驚愕の事実を知ることになる。

『は…』

思わず、吐息のような声が漏れ出る。
237号室へ向かう為の角を曲がった、その先。

赤と青。こんな場所で見えるはずない色が、視界に入ったから。

彼ら(・・)は談笑していた。
私に気づかず、二人だけの空間で。

「ホテルとかマンションとか、そんな感じ？」

「なんで閉じ込められたんだ……？」

何故？何故なんだ？
体が震えた。

なぜ、私が捕らえたはずの彼らが部屋の外に出ているんだ。

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