救済思想 (ページ12)

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EP.1 ページ12

『…ぁ、』

出す必要のない声が、つい、漏れ出る。

＿＿＿＿＿＿＿この人、私が薬を打った薬剤師の人だ。

確か……スマイル、だったっけかな。
……あれ？

『…あなたは、何も悪くないですから』

「……はい…」

「ありがとう、ございます……」

この人、私のところに来ていたことがあるような。

「…誰、ですか」

沈黙の後、

彼は、あらゆるアンテナを張り巡らせながら
こちらに問いかけてきた。

……ああ、そうか。

彼はもう、今までの彼とは違う。
生きる希望という名の灯火を、宿してしまっている。

私の仕事は、その火を消すこと。消さなければならない。

＿＿＿＿＿＿＿＿そのために、やることは？

まずは、信頼を得るところから。
彼らと同じだと偽って、動く。

だから、演じればいい。
普段の(・・・)私を。

もう、迷うことはない。

『……まず、自分から名乗るのが礼儀です、けど』

彼の、紫の瞳を見据えた。
その瞳は、星空の如く煌めいて。

ああ、変わってしまった。
こうなったヒトをこちら側に戻すのは、難しいのにな。

心の内で毒を吐きながらも、
表面では、取り繕う。

相変わらずだなあ、とか思ったりして、
普通の私に、成りきった。

『…A、です。あなたは？』

沈黙が、2人の間に降りる。

きっと「信用できるのか」とか
「怪しい、教えたくない」とか考えてるのだろう。

ああ、全て読めてしまう。
悪いクセが、ついてしまっているようだ。

「………スマイル、っすけど」

……ああ、やっと教えてくれた。

すまいる、さん……と、小さく唱える。
これも、普通の私に成り切るために。

…さて、少し気になったところを、聞いてみようか。

『あの……』

「はい？」

『とりあえず…降ります？』

「…あ、はい」

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