救済思想 (ページ11)

今日:11 hit、昨日:16 hit、合計:7,503 hit

・ページ11

思わず、部屋を飛び出してしまう。
あの場所にいてはいけない、と悟ったから。

ふぅ、と一息つき、
"あの人"からもらった鍵で施錠する。

『……何をすれば、いいんだろう。』

思わず漏れ出た一言が、壁にぶつかり消えて行く。

やっぱり、私は1人じゃ何もできない。
私には、"あの人"がいないと、何もできないんだよ。

*…GROUND FLOOR。そこに向かえ。

私の後ろから、愛おしい声が聞こえた。

振り返ると、その声の主("あの人")がそこにいた。
その場で落ち着いた様子で佇んでいた。

悪魔のような紅の瞳をもつ、
愛してやまない、私だけのヒト。

白で包まれたレストランの中で、
そのヒトの赤は一段と輝いているように思えた。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ああ。

あの人は、私のことをまだ捨てないでくれている。
あの人は、私にまだ…期待を抱いてくれている。

その事実だけで、体が安堵に包まれた。
……私は、まだ、生きていれる。

『…うん、わかった。ありがとう』

安堵と喜びでぐちゃぐちゃになった心を抱え、
GROUND FLOORへ行くために、道を急ぐ。

レストランを出て、すぐ左。
そこには、エレベーターがあるんだ。

レストランを出て、左を見る。
案の定、エレベーターがそこにあった。

その上、運良く、エレベーターはこの階でとまっていた。

ボタンを押し、時計の秒針と競うように乗る。
がた、とドアが閉まる音を聞きながら考える。

……やっぱり、"あの人"は偉大だ。

こんな愚かな私でも、救ってくれるのだから。
まるで、神様みたいな。

私にはきっと、あの人しかいない。
否、これからもずっと、あの人だけだ。

だから、あの人に従ってるだけでいい。
だから、余計に考えるなんてこと、しなくていい。

それなのに＿＿＿＿＿＿＿＿

ふと、ちりん、と機械的なベルの音と共に、
ドアが開いた。

「……人…？」

静かで品のある低音が、私の耳に届いた。

EP.1→←・