恋を、君と。❷ (ページ6)

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君と、六月の恋を。#Taisho ページ6

雨も雷もAを濡らしたり、怖がらせたり、全く以てけしからん。
早く機嫌を直していただけませんでしょうか。

そんな切なる願いが届いたのか次第に雨足は弱くなって空も明るくなってきた。

「大昇、ありがとう。もう大丈夫」

雷様もどっかへ行ったみたいだし、めでたしめでたしとAを離そうと瞬間だった。
神は再び試練を俺たちに与えてきたのだった。

「やば、バス来ちゃった」

「えっ？！」

ここがバス停であったことをすっかり忘れていた。
数メートル先に此方へ向かってくるバスが一台。間違いなくここに止まるものだ。
まばらだけれど乗客も何人か見て取れる。
さぁ、どうする。俺は自分に課した最大のミッションを思い出した。
今のAを他人の眼に晒す訳には絶対にいかない。
だけど少し弱まったとはいえまだまだ雨は本降りでここから出る訳にもいかない。
……仕方がない。

「A、」

「えっ？」

俺はバスに背を向けて、
もう一度、Aを抱きしめた。

「たいしょ…、」

「じっとしてて」

背後でバスが停車してドアが開いた音がした。
バスのエンジン音と雨音と、運転手さんと乗客の視線がビシバシと背中に刺さる。
Aは顔を真っ赤にして大人しく俺の腕の中に収まって息を飲んだ。

「あのー、乗られますか？」

「あ、いえ！ちょっとここで雨宿りしてただけなんで、すみません！」

早口にそう答えると運転手さんは小さくお辞儀をしてドアを閉めた。
そしてバスが発車する間際、…これは気のせいだろうか。
運転手さんが"頑張れよ”的な"仲良くやれよ”的な何やら意味深な笑みを去り際に俺に向けた気がしたのは。
もし気のせいじゃなかったら、ありがとう、運転手のおっちゃん。俺、頑張るよ。いや、めっちゃ頑張ったよ。

「よし、もう大丈夫」

だがしかし、今日のお天道様は本当に気分屋でおまけに大のイタズラ好きらしい。
Aが俺から離れたその時だった、去ったと思った雷様が再び空に稲光を走らせた。
Aは咄嗟にぎゅっと眼を瞑った。

早く、Aをもう一度抱きしめて、守らないと─頭ではそう思ったのにどうしてだか俺は…、

Aに着せていたジャケットでAを覆い隠して、
そしてそのまま、Aにキスをした。

雨音が聞こえなくなって、景色は静まり返って、まるで俺とAだけが世界から切り取られたようだった。
一瞬の、だけど何だか凄く長いその時を、雷鳴が裂くことはなかった。