恋を、君と。❷ (ページ5)

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君と、六月の恋を。#Taisho ページ5

そんな使命に燃え滾る俺の胸の内なんて知る由もないAの濡れた服の上に自分のジャケットを羽織らせた。

「あっ…」

漸く今の状況に気付いたAは咄嗟に腕で胸元を隠して縮こまった。

「それ着てれば大丈夫」

「うん、ありがとう…。大昇、寒くない？」

「へーきへーき。A、もうちょいこっち来て」

ただでさえ小さな身体を尚更に小さくするAの腕を引いて、周りの人に見えないように自分の身体の影に隠した。

「Aは？寒くない？」

「うん、大丈夫。大昇の服、あったかい。」

Aは少し顔を紅くして羽織らせた俺のジャケットをきゅっと握りしめて照れたように笑った。
小柄な体躯のAにはもちろん俺のジャケットは大きくて、それに包まれた華奢な肩だとか、俺の影で小さく身体を窄めてジャケットを握りしめる仕草だとかはそれは反則級の可愛さで、もう人目も憚らず抱きしめてしまいたい衝動が俺を襲った。
けれどそこは、人目のあるところであまりイチャつくのは好きじゃないAの気持ちを尊重してグッと耐える俺。エラい、俺。
通り雨だからきっともうすぐ止むはずだ。
そしたら爆速でマイホームへと直帰して思いっ切りAを抱きしめよう。
そしたら…それから……。

そんなことを悶々と妄想していたら俺たちの熱々イチャイチャっぷりにお天道様が嫉妬したのでしょうか。
目の前がピカッと光り、灰色の雲の隙間に閃光が走った。

「っ…！」

華奢な肩がビクッと跳ねて、Aが小さく悲鳴を漏らした。
空が光った次の瞬間土砂降りの街に大きな雷鳴が轟いて、長く尾を引くように響き渡った。

「A…、」

雷鳴が鳴り止んで街はまたアスファルトに叩き付ける雨音の喧騒に包まれる。
そんな中、気付けば、俺はAを強く抱きしめていた。

「たい、しょ…っ、」

「うん、大丈夫。だいじょうぶ。」

Aは、雷が大の苦手だった。
子供の頃から大嫌いで大人になった今でも怖いって前に言っていた。
事実、突然の、しかもすぐ頭上で鳴り響いた雷に、抱きしめたAの身体は驚いて震えている。

「大丈夫。雨もたぶんもうすぐ止むし、雷もすぐ遠く行くし。俺がこうしてるし、大丈夫。」

俺の胸元のシャツをぎゅっと握って震えるAの背をやさしく撫でる。
さっきまで頭の中を支配していた願いが叶ってAは俺の腕の中にいるけれど、こんなに怯えて震えてるAを前に喜びなんて1mmもない。