恋を、君と。❷ (ページ31)

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十年後の約束-君に灯火の花束を- #Taisho ページ31

「大昇…？」

「………ねぇ、A」

拍手も歓声ももうどこにも居ない。
少し寂しさの漂う二人だけの夏の夜の下。
訪れた静けさにやっぱり心臓はうるさくて鼓膜を痛く震わせるけれど、
一度息を吐いて肺いっぱいに大きく吸い込むと夜に漂う火薬の匂いに胸の中が満たされて、それは何だか咲いて散っていった沢山の花たちにそっと背中を押してもらった気がした。

「あのさ……」

夜が、しんと静まり返る。
この言葉をちゃんと君に届けるために。

あの日─十年前の夏の日に、
君に言いたくて、言おうとして、言えなかった言葉が、ようやく音を吹き返す。

「……来年も、来ようね。」

あの日言えなかった、伝えたかった、たった一言。

その頃にはヨーヨーはもう萎んで
だけどきっと愛しさは募って
君は今よりもっと大人びて
もう二度と、あの夏も、この夏も、巡ることはないけれど。

「来年もまた、ここにAと二人で来たい。」

「絶対に、またAをここに連れて来るよ。」

約束──。
もう二度と、あの夏も、この夏も、巡ることはないから。
また来年も、二度と巡ることのない夏を君と一緒にいたい。

「……ちゃんと、」

拍手も歓声も鳴り止んだ静けさを震わせたのは、泣き出しそうな声だった。
Aは、俺があげた黄色いヨーヨーを大事そうに大切にてのひらでそっと包んで胸にきゅっと抱きしめた。

「ちゃんと、覚えてたよ……ぜんぶ……。」

「あの日も、大昇がヨーヨーくれたことも、迷子になったことも、大昇がここに連れて来てくれたことも、大昇がずっと手を繋いでてくれたことも……」

ぜんぶ、覚えてるよ─。

季節は足早で風のように過ぎて行くのに、
あの日の記憶だけは色褪せることなく瞼の裏に焼き付いていていつまでも鮮明に色付き咲いていた。
それはきっとこれから先何年経っても、決して枯れることはないんだろう。
夜空に大きく咲き誇っては一瞬で儚く散り行く花火が、いつまでもこの瞳に煌めいて消えることがないように。

「ありがとう、大昇。またここに連れて来てくれて。…また、大昇とここに来たかった。」

「私もね、あの日……言おうとしたの……」

"来年も、来ようね”って─。

ほら、君の瞳の中で灯火の残像が瞬きに煌めいて。
それはあの日よりずっと大人びた君を飾って
とても、とても綺麗だった。