恋を、君と。❷ (ページ17)

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約束-キミといた夏- #Taisho ページ17

もう一度この手を繋いだのに焦りも不安も恐怖も消えてはくれなくて、込み上げてきた熱い膜が瞳を覆った。
いやだ、泣きたくない。泣くんじゃない。
もう二度とAを見失いたくない。

「大昇」

一回り大きな俺の手を、一回り小さなAの両手がやさしく包み込んだ。
瞬きで散らした涙の先で、Aは笑っていた。

「ありがとう、見つけてくれて。」

繋がれた手の下で、黄色いヨーヨーが揺れる。
夜空から射す色とりどりの光で照らされたその笑みはとても綺麗だった。

「花火、ほんとうは…」

大昇とふたりで見たかったの─。

思い出したのは、一年前の約束。
Aと一緒に線香花火をした夜。

『あーあ、もっとおっきな花火が見たいなぁ…』

燃え尽きて落ちた小さな灯火の玉を見送った、その横顔は何だかとても寂しそうで。

『じゃあ、おれがつれてってあげる。めっちゃでっかい花火見えるとこ！』

笑ってほしかった。笑顔が見たかった。

『ほんとっ？』

『うん、Aにだけおしえてあげる！ふたりで見よ、やくそく！』

『うん、ぜったいね！やくそく！』

思い出した、結び会った小さなふたつの小指。

「やくそく…」

俺はもう一度強く強くAの手を握りしめた。
もう二度と、何があっても、離れないように。

「A、行こう」

Aは、俺を見つめて頷いた。

教えてあげる、俺だけが知ってる秘密の場所。
世界でたったひとり、キミだけに。

─

人々の喧騒を背にAの手を引いて辿り着いたのは小高い丘の上。
俺だけが知ってる秘密の場所。

「わぁ…」

誰もいない、ふたりだけの場所。
次々に打ち上げられる大輪の花火たちは誇らしげに夜空に咲いて、まるで俺たちだけに笑いかけるようで。

「…」

Aが零した感嘆のため息は夜に溶けて、
ふたりの間には花火の咲く音だけが木霊する。
何かを言おうとして視線を夜空から隣へと移したけれど、まるで何も言えなかった。

もうあの日の寂しげな横顔はどこにもいなかった。
この瞳に映ったのは、まるで恋をしたように夜空に見惚れた幸せそうな笑みが咲く横顔だった。
そうだ、この笑顔が見たかった。
他の誰かじゃなくて、この手で、その笑顔を咲かせたかった。
ずっと見つめていたかったれど、そっと視線を夜空へ戻した。
Aが今見ている景色と同じ景色を、Aの隣で見ていたい。一分でも一秒でも長く。
時間よどうか、ほんの少しだけ足を止めて。