恋を、君と。❷ (ページ15)

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約束-キミといた夏- #Taisho ページ15

『大昇、ちゃんとAちゃんの手繋いでてね。Aちゃんのこと、』

守ってあげてね─。

その言葉の意味はまだ理解(わか)らなくて、あの日の俺は曖昧に頷いた。
自分の手よりも一回り小さな手を握りしめた、あれは十年前の夏の日。

─

地元で一番大きな花火大会。
家族連れ、カップル、高校生や大学生のグループ、見渡す限りは人の波。
俺は握りしめた小さな手を今一度強く握りしめた。

「A、だいじょうぶ？」

繋いだ手の先に問いかける。
こちらを見上げた大きな瞳は、繋いだ手を見つめてこくりと頷いた。

ウチの家族と幼なじみのAの家族は大の仲良しで、今日もこうやって揃って花火大会へとやってきた。

『大昇、ちゃんとAちゃんの手繋いでてね。』

母ちゃんに言われた通り、はぐれないようにしっかりとAの手は繋いだけれど。

『Aちゃんのこと、守ってあげてね。』

だけどその言葉だけは未だ喉の奥に引っ掛かっていた。
決して難しい言葉なんかじゃないのに、難問を問われたように心が首を傾げてしまって上手く飲み込めないでいる。

ちらと見遣ればAはぼーっと人の波を見つめている。
浴衣を着付けてもらっても、可愛く髪を結ってもらっても、Aはあまり楽しくなさそうだった。

「大昇、行くよー。ちゃんとAちゃんと後ろついてきてね」

「はーい。A、行くよ」

Aはやっぱり静かに頷くだけだった。

─

かき氷をAと分け合って食べたり、金魚すくいしたり、ヨーヨーを釣ったり、花火の時間まで屋台を回って遊んだ。

「じゃそろそろ場所移動しようか」

午後八時前。人波も屋台から花火大会の会場へと流れていく。

「A、花火もうすぐだよ」

Aは黙ったまま手に持った黄色いヨーヨーを見つめていた。
そのヨーヨーはあと一歩のところで釣れなくて、代わりに俺が釣ったのをあげたものだった。

「大昇、Aちゃん、早くおいで」

「あ、」

母ちゃんの呼びかけに返事をしようとして振り返った、その時だった─、

「うわっ、」

俺は歩いていた人にぶつかってしまいよろけて尻もちをついてしまった。

大昇───

思わず瞑った瞼の奥の暗闇で聞いたのは、
風鈴を軽く揺らすだけのそよ風のような小さな小さなAの呼ぶ声。

「っ、A…！？」

急いで目を開けた。
視界に映るのは変わらない人波。
直ぐ様辿った手の先には、

「A…っ、？」

繋いでいたはずの小さな手は見当たらなかった。