忘れな草の恋 30

30-12 思い出した。 ページ12

■ A ■

何も言わないｷｭﾋｮﾝ。何かを言われても困るけれど彼からの視線が少し気まずい。

ごめん―、と謝る事しか出来なくて視線を下げたらｷｭﾋｮﾝの手が頭に乗った。

ｷｭﾋｮﾝ「知ってるって。前に言っただろ？」

うん…、言ってくれたね。それも今日思い出したんだよ。

それからさっき…もう一つ思い出した事がある。

寝そびれたんだと話した時、頭の中がまた気持ち悪くなった。だから絶対に忘れた記憶の事だと思った。

確かに寝そびれたけど、その理由ってなんだったかな、と考えていたら楽譜の清書をした事を思い出した。

眠さのせいで霞んで見えた音符―。

寝るのを我慢する程ではなかったはず。ならどうして寝なかったんだろう。

目を擦ったり目頭を押さえながら一息ついて振り向いた先はｿﾌｧで…、毛布から飛び出る兄の足が見えて立ち上がった。

お兄はほんまに寝相悪い…とぶつくさ言いながら移動した私は床を見ながら小さく噴き出してしまった。

――ｳﾆｮｸも寝相悪い。

そうだ…、そう言って毛布を掛け直した。そうそう、私が寝なかったのはｳﾆｮｸが寝てしまったから。

兄を連れて来てくれたのは憶えているけど、何で寝てしまったんだっけ…。

そこまで出たのに、後がなかなか出て来ないのが気持ち悪くて頭を殴ると、同じ様に頭を殴っていた自分が出て来た。

――あ、ｳﾆｮｸじゃなくて、ﾋｮｸﾁｪさんやった。ﾋｮｸ…気持ち良さそう…。

その独り言が頭に鳴った途端に、その夜に起こった出来事が全部出て来た。

あの日ｳﾆｮｸと気まずいまま別れて…その後仲直りするために私の家に来てくれたんだった。

思い出したと喜んだのも束の間、本名で呼んで欲しいと言われた事も思い出した。

ﾋｮｸﾁｪ…ﾋｮｸ――。どうりで口にしても違和感がないわけだ。

私が本名で呼んだら涙を流した彼。それなのに私は呼び名を元に戻したわけだ…。

今日ｳﾆｮｸと呼んだ時の彼の驚いたような、戸惑ったような…顔。

何たる失態…、と後悔しながらも、おでこのｷｽも思い出してしまって、恥ずかしくなるし…、どうしたら良いか分からなくてとりあえずﾜｲﾝを一気飲みした。

今日の事は絶対に忘れたくなかった。

だから写真を撮ろうと言った…ら、酔っているのかと訊かれて、おかしいと思われてるんだろうなと思った。

でも私がおかしいのはいつもだ。今だけじゃない。

別に頭は良くならなくても良いから、私…頭のおかしくない人になりたい。

30-13 ﾘｰﾀﾞｰのｲﾄｩｸ降臨→←30-11 おかしいのはいつも

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す