【Fischer's】ウミの記憶

28Marin ページ33

________


ﾄﾞｽｯ...



｢あ、すみません。｣


｢いえこちらこそ...。｣




その日は、私にとって人生を大きく変えた日で。





1度も降りたことのない崖から、海岸まで降りてきた日。




もういいやって、




この何十年間諦めていた。





私は、ずっと家に居りゃいいかなって。







けど、あの人達を見て、決心したの。






｢もしかして、お1人ですか?｣






家から、出ようって。






崖から、降りようって。





｢そうですけど......。｣




｢良かった!奇数で困ってたんですよ...少し、一緒にやりませんか?｣





私はただ、家から解放されたかっただけで。




崖から降りれれば、それで十分なの。







けど、家出しようと決心させてくれたのは、この人達だから。







わざとぶつかって、存在に気づいて欲しかった。





眩しい君達には、ただ海でぶつかった人なんて







記憶の片隅にも残らないだろうけど。







なのに、君たちは






見知らぬ私を、誘ったの。




｢何ですか?......ソレ。｣




｢あ、ご存知ないっすか?フレスコボールっていうんですけど。


こう...打って遊ぶやつです。｣






そう言って私にラケットを渡してくれた、眩しい人。





｢お時間があれば...の話ですけど...。｣




今思えば、水着を着ていない人が浜辺にいるなんて、可笑しい話だよ。




けど、君達はそんなの気にしない。







｢じゃ...じゃあ_____。｣







本当に、こんなつもりじゃなかったの。








こんな風になるなんて、考えもしてなかった。






貴方達を、ずっと上から見ていた私。








こんな風に優しくされたら、別れるのが寂しいよ。






｢へぇ...。____さん、って言うんですね。｣

｢いい名前!!!海で___さんに会うなんて、奇跡じゃない!?｣








｢俺等は、Fischer's。｣






"Fischer's"。






海みたいで、





眩しくて、









波みたいに、







私をさらっていって欲しかった人達。

29Marin→←27Marin

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す