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｢え？｣
｢マシロ殿のお母様の身の回りの世話などをしていたのはメイド長でした。｣
オーブンの中に満ちていたオレンジの光が消え、甘い匂いが濃くなる。
均一な円形は綺麗なきつね色に焼け、見るからに美味しそうだ。
どうぞ、と差し出された一つを恐る恐る受け取れば熱さで取り落としそうになる。
それでもなんとか口に放り入れれば、舌が焼けそうなほどの熱とともに優しい甘さが広がった。
美味しいよ、と自然に口角が上がる。
その様子を眺める柳の眉尻は下がっていた。
｢場所は｣
｢申し訳ございません、そこまでは……｣
其処まで分かれば充分だ。
ありがとう、と微笑んで柳に背を向ける。
坊ちゃん、と遠慮がちな声に振り向いた。
今日はよく呼び止められる日だ。
｢
｢大丈夫。分かってるよ｣
ひらりと手を振って今度こそ厨房を後にした。
こつこつと足音を響かせる磨かれた床。
うっすらと映る自分の姿に苦笑する。
険しい目元、彫りの深い顔立ち、針金が入ったように伸びた背筋。
十人に聞けば十人とも『厳しい人』だと評するメイド長。
だが同時にその”正しい厳しさ”は優秀なメイドたちを何人も輩出してきたことを意味する。
｢……あのメイド長が、ね。｣
描きかけの絵。
ザラつく表面を撫でて溜息を吐き出した。
指先を掠める、どろりとした感触。
しまった、と思ってももう遅い。
隣り合っていた色同士が混ざってしまっている。
思わず溜息が漏れた。
イーゼルから持ち上げ、適当に近くへと置く。
＿＿真新しい、真っ白なキャンパスは息苦しくて仕方がなかった。
トントン、と扉を叩く音。
入るように促せば小さめのワゴンを引いてやってきた柳の姿が。
バターの甘い匂いに少しだけ肩の力が抜けた。
おや、と眉を軽く上げる。
ティーポットから流れる紅茶は、いつもの華奢なティーカップではなく、丸みを帯びたマグカップに注がれた。
たっぷりの蜂蜜とミルク。
思わず笑ってしまう。
｢爺や、僕別にストレートでも｣
｢坊ちゃんがお疲れのようでしたので｣
疲れている時には甘いものに限りますよ、と差し出されたマグカップ。
ごくん、と飲み下せば優しい味が広がった。
｢……メイド長に話を聞いてみようと思う｣
｢それが坊ちゃんの判断なら、爺やは何も言いません。｣
悔いなき選択を。
＿＿喩え、その選択が誰かの不幸を招くとしても。
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湯葉(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!!とても嬉しいです!! (2020年10月5日 6時) (
レス) id: cb66408181 (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 原作ではないお話も入っているのでいつもハラハラドキドキしながら読んでます！この先でもし、世界戦に主人公が選手として出場するなら味方として出ても、決勝戦で敵として立ちはだかってもどちらの展開でも面白そうですね！これからも応援してます！ (2020年10月4日 18時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
湯葉(プロフ) - 常備薬さん» ありがとうございます!!これからも頑張ります！ (2020年9月27日 21時) (レス) id: cb66408181 (このIDを非表示/違反報告)
常備薬(プロフ) - ドキドキしながら読んでます！やっぱり面白いです！ (2020年9月25日 22時) (レス) id: 074c2be95c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：湯葉 | 作成日時：2020年9月21日 12時
