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｢おかえり。｣
門を潜り、呆れるほどに立派な庭園を抜けて彼の部屋に入れば、イーゼルの前に座る彼がいた。
穏やかな微笑み。きっと電話の最中も同じような顔のままだったのだろう。
少しだけ、胸が痛んだ。
｢兄さん｣
｢……マシロ、君の口から聞かせて欲しい。｣
彼らしからぬ言葉に目を見開く。
先程とは打って変わって険しい表情を浮かべた彼に、一瞬だけ怯えたような表情を見せたマシロ。
それでもすぐにそんな表情引っ込め、覚悟を決めた強い光で彼と豪炎寺を射る。
｢僕のお父さんはお母さんに殺されました。｣
｢っ!?｣
豪炎寺が息を飲み、彼の眉間に皺が寄った。
脈絡の無い言葉。それでもマシロが懸命に”何か”を伝えようとしているのは明白で。
続けて、と表情を変えぬままに促す彼にマシロが浅く頷いた。
｢お父さんはお母さんのことが嫌いでした。
お母さんがお酒を買ってこなかったり、煙草を買ってこなかったらお母さんを殴って、お母さんに怒鳴りました。｣
それでもお母さんは僕を守ってくれた。
か細い言葉。
声を震わせながらも、必死に涙を堪える様子に駆け寄りたくなるが、ぐっと堪える。
隣の彼が、あまりにも苦しそうな顔をしていたから。
そっと手を握ってやればハッとしたように彼が豪炎寺を見た。
｢……うん。それで｣
｢お父さんが、お母さんの宝物だったお父さんとの結婚指輪を売りました。｣
どんなに暴力を振るわれても、酷い言葉を言われても、指輪さえあれば愛の形が辛うじてまだわかるような気がした。
しかし何処を探しても指輪がない。
なんてことないように売った、と告げた夫にマシロの母はどんな顔をしていたのだろうか。
｢お母さんがわざとお酒を買ってこなかった日、お父さんは灰皿でお母さんのことを殴りました。
＿＿お母さんは、近くにあった包丁でお父さんのお腹を｣
｢……ごめん、もう分かったよ｣
ありがとう、と言う彼の声は硬いままだ。
｢父さんは、君に何を求め、何を与えた？｣
マシロの選択を、自由を尊重するために彼は聞かなくてはならない。
何が起きたのかを。
＿＿たとえそれが、マシロの意志を尊重しないものだとしても。
＿＿いくら辛く、思い出したくないものだとしても。
｢清雅さんは、お母さんがお父さんを殺したことを”なかったこと”にしてくれて、僕に”マシロ”の名前をくれました。
＿＿僕が清雅さんに求められたのは、おにいさんの妨害をして、おにいさんより先に大雅さんの情報を得ることでした。｣
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湯葉(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!!とても嬉しいです!! (2020年10月5日 6時) (
レス) id: cb66408181 (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 原作ではないお話も入っているのでいつもハラハラドキドキしながら読んでます！この先でもし、世界戦に主人公が選手として出場するなら味方として出ても、決勝戦で敵として立ちはだかってもどちらの展開でも面白そうですね！これからも応援してます！ (2020年10月4日 18時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
湯葉(プロフ) - 常備薬さん» ありがとうございます!!これからも頑張ります！ (2020年9月27日 21時) (レス) id: cb66408181 (このIDを非表示/違反報告)
常備薬(プロフ) - ドキドキしながら読んでます！やっぱり面白いです！ (2020年9月25日 22時) (レス) id: 074c2be95c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：湯葉 | 作成日時：2020年9月21日 12時
