#��_26 ページ28
一心不乱に筆を紙面に走らせる。
ぶわ、と滴り落ちた涙のように広がる淡い色を少しずつ重ねて陰影をつけ、輪郭をなぞりながらも思考は別の方向へと働いていた。
結局あの資料については”違和感”以外の、”具体的な何か”は分からないままだ。
そっと窓の外に視線をやる。
懸命にボールを追いかける姿に口角を上げ、再び筆を絵の具で濡らした。
瞳を伏せて思い出す。
母も、ヒロも皆いたあの頃。
生き生きとした葉の緑、柔らかに差し込む陽の光、サラサラと流れる澄んだ小川。
『私がおばあちゃんになったらこんな所に住みたいわ。』
『歳なんて取らなくてもお前が望むなら、私は此処に居を移しても構わんぞ』
懐かしい日々に頬が緩む。
コウも行くなら俺も、なんて手を挙げるヒロを皆微笑ましそうに見つめていた。
ふ、と眉根を寄せる。
＿＿なんだ、この違和感。
何の変哲もないただの思い出。
その筈なのに、なにか大切なことを見落としている気がする。
筆を置き、資料を手に取って数枚捲った。
僅かに見覚えのある文字の群れを幾つかパソコンに打ち込み、スクロールしていく。
かち。
無機質で小さな音が、硬く響いた。
溜息を吐き出す。
背筋に寒気が走った。
画面に表示された景色は、どれも思い出の景色と合致していた。
｢……
検索ワードをひとつ増やし、再びエンターキーを押して画面をスクロールしていく。
同じ作業を繰り返し、辿り着いた数箇所。
電話番号をメモしてパソコンの電源を落とした。
電話の子機を手に取り、メモした電話番号全てに電話をかけていく。
『はいもしもし？すみません、こちらの物件……』
｢存じ上げております。｣
向こう側の声を断ち切るように早口で要件を伝える。
最初は訝しんでいた電話の向こう側の人物も、彼の言うことと現実の整合性があることに気づいたのか案外あっさりと回答してくれた。
パラパラと紙同士が擦れるような音。
手に汗が滲み出るのが分かる。
『……ああ、ありました。』
皇涼子さん、ですよね？
どっと全身から力が抜けた。
良かった。
『何か伝言などありますか？』
｢……はい。｣
ぎゅ、と子機を握る手に力が込められる。
一度瞳を伏せ、小さく息を吐き出した。
｢”八年前のことがようやく分かりました。
答え合わせに行くので待っていて下さい”、と。｣
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湯葉(プロフ) - 夜さん» ありがとうございます!!とても嬉しいです!! (2020年10月5日 6時) (
レス) id: cb66408181 (このIDを非表示/違反報告)
夜 - 原作ではないお話も入っているのでいつもハラハラドキドキしながら読んでます！この先でもし、世界戦に主人公が選手として出場するなら味方として出ても、決勝戦で敵として立ちはだかってもどちらの展開でも面白そうですね！これからも応援してます！ (2020年10月4日 18時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
湯葉(プロフ) - 常備薬さん» ありがとうございます!!これからも頑張ります！ (2020年9月27日 21時) (レス) id: cb66408181 (このIDを非表示/違反報告)
常備薬(プロフ) - ドキドキしながら読んでます！やっぱり面白いです！ (2020年9月25日 22時) (レス) id: 074c2be95c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：湯葉 | 作成日時：2020年9月21日 12時
