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「また小娘に論文を書かせたら良かったじゃないか」
「それがですね?彼女の親戚の家に預けてから壊れちゃったみたいでぇ、何を言っても殴っても蹴ってもニコニコ笑っているだけになっちゃったんですよ。一回剥がしたことあるんですけど全身傷だらけであの家もやってたんでしょうね」
「まぁ、変に勘繰られるよりそっちの方がありがたいがね。しかし、一課の課長、服部だったか。あれはしつこかったな。そのうちぱったり来なくなったが」
「一課と言えばいいのが居ましたよ。飯島Aでしたっけ」
「あぁ、どれ。無事に越せた記念に愛人の一人でも増やしておくかね」
と下品な笑い声が響く。
声が大きすぎたためか、店の従業員に注意され、それからはくだらない話が繰り広げられた。
自然と視線がAに集まる。
しかしAは怒りもせずに泣きもせずに、ただ静かに笑みを浮かべているだけだった。
「冷静さは欠いてないね」
「予想通りだっただけだよ。でも良かった。親の遺言を聞けて。あとは用済みだね」
と淡々と述べていくと中でふと空気が代わる。
「あ」
「なにかあったかね」
「そういえば、あの小娘の親戚の名前確か「飯島」だった気がして……気のせい、ですよね?」
それから陶器を落とすような音が聞こえた。
恐らくお猪口だろうと分かる。
「偶然だろう。まず、犯罪者が親族にいる時点で」
「しかし、先日の件といい」
隣の部屋が静まり返る。
「そういえば、隣の部屋、やけに静かじゃないですか……」
「帰ったんだろう……」
でも、だって、もしかしてと弱気な言葉が 交わる。
「喧しい!だったら開けて確認したらいいだろう!」
と勢いよく開くと男は呆けた顔になる。
「な、ど、なぜここに」
「それは私達の勝手だよね」
と笑みを崩さずにいう。
「それともここで会ったが百年目というのを期待していたのかな。でもそんな非合理的なことはしないし、復讐だとか馬鹿なこともしない」
どこかホッとした顔を男達が浮かべる。
「そ、そうか、ならお互い水に流して」
「何言ってんの。それはお互いに非があった場合の話でしょ?私に何の非があるの」
丁度良く来た店の人から急須と湯呑を受け取り、丁寧な所作でお茶を淹れていく。
それを掛けるのかと男達は身構えるが普通に飲んでいるだけだった。
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作者名:弥生 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=hakuoukiyayoi http://
作成日時:2022年4月22日 0時