【まほやく】御伽噺のような (ページ5)

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A「それはだね。賢者様。死がいつ訪れるか分からないという点だ。私も賢者様も１０を数える間に死んでしまうかもしれない。もしくは明日、明後日……はたまた数十年後と言ったようにね」

賢者「そう、ですね。ではそれを忘れない戒めのため、とかですか？」

A「ううん」

賢者の言葉にきっぱりと首を振った。

あまりにもきっぱりと答えるから賢者は驚きと困惑を混ぜたような顔をした。

賢者「え、じゃあ備えるため、とか？」

A「うーん。死に怯えることは否定しないよ。それも自由だ。けど、そんなに深く考えなくていいよ。魔法使いって大分、単純で楽観的だからね。考えてみて？私は西生まれの南の国の魔女だよ？」

西生まれの南の国の魔女、という言葉で賢者は「あ」と声を上げた。

賢者「後悔内容に今を楽しく、ですか？」

A「正解。いいね。魔法使いをよく理解している。君みたいな子には是非とも頑張ってほしいものだね。何かあってオズやフィガロがいないときはこれを使うといい」

と鈴がついた栞を渡す。

A「君が心から私を呼んだ時にその鈴は鳴るよ。そしたら君を守ってくれるしおまけに私も出てくる。戦いに関しては役立たずだけど逃げ足には自信があるから任せておくれ」

なくさないようにおまじないおまじないと言って指先でくるくるすると栞は光り輝いて賢者の書に挟まれた。

ムル「わぁ、いいなぁ。賢者様に警戒されないなんて。俺とA、割とそっくりだと思うけど何が違うんだろ！」

A「君と違って浅いからねぇ。『どうして』『なんで』に重きを置いてないのさ」

ムル「君のような知識人がそうなのは意外な話だ」

ムルは意外にAの回答に驚きを隠せずにいた。

A「いい顔だね。精々その賢すぎる頭で覚えていられる間は考えてみるといい」

にっこりと笑うとムルは真剣な顔をしながら宙に浮かんで考え込む。

不意に扉が開く。

そこには美しい銀の髪をもった青年が立っていた。

アーサー「客人が来て……」

青年はAの顔をじっと見て目を見開いた。

そしてつかつか近づいて手を握った。