第九話 ページ9
目の前にはあの茶髪で真面目そうな少年が立っていた。
どこかぶっきらぼうに聞こえる様な声音は何となく今のこの状況に少し怒ってくれている様にも見えた。
けれど、そういえば此奴もあの時鼻で笑ってたなと一人思い出しながら端的に問われた質問に答える。
「そこ曲がって真っ直ぐ行って――」
「案内しろ」
「･･････」
指を指しながら丁寧に教えていた私の言葉を遮って降ってきた返答は実に偉そうなモノだった。
一体全体何なんだとしゃがみ込んでいた姿勢から立ち上がり、両手を腰に当てて見せつけるように溜息を吐く。
「久坂」
そして茶髪から視線を逸らすことなく乱暴に久坂の名を呼んで暗にお前が案内しろと雰囲気で言いたいことを伝えた。
「えっ俺？」
すると、自分自身を指差して困惑した表情を浮かべる久坂。
天然なのか此奴はと至極重々しげに溜息を吐きつつゆっくりと斜め後ろに居る久坂へ向き直り、本日何度目か判らない本音を発する。
「俺？って―― 一応アンタの身代わりになって濡れてる様なモンなんだけど」
「あ、ごめん」
「謝るよりも早くブレザーかけてあげたら？」
久坂の後ろに居た長身の子がサラッと言い放った言葉に久坂が私のブレザーを頭から外して慌て始める。
その様子をどこか冷ややかに見つめる三人組。
気持ちは判ると勝手に心の中で頷き、未だ焦る久坂の手から自分のブレザーを抜き取った。
「あっ、でもこれ濡れて――」
と、久坂と会話をしていた時フワッと肩に掛かる軽い重みで一瞬だけビクッと身体を揺らす。
ゆっくりと首だけ後ろに回せば、あの茶髪が自分のブレザーを私に掛けてくれていた。
「別に濡れたのは後ろと横だけだし自分のブレザーで十分――」
「君は既に濡らした物を人に返却するのか」
「はい、ありがとうございます」
優しさを無碍にして申し訳ないと思いつつ何となく怖かったので返却しようとすれば秒で却下された。
その様子を端から見ていて笑う長身へ笑うなそこ、と視線を飛ばせば含み笑いをして流される。
そして先刻から無言で久坂を見つめている茶髪の顔は段々と険しいモノになっていき、
「早く案内しろだって」
「え、あ、うん」
その様子を察して久坂を急す。
けれど、何処か申し訳なさそうに私がもつブレザーへ視線を落とした久坂へ気にする必要はないとだけ伝えてあとはよろしくと御願いをし
――じゃっ、風邪引いちゃうんで
そう言って逃げるようにして男子トイレをあとにした。
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nanase.(プロフ) - りょうこさん» こんにちは。この度は本作品をお読みいただき誠にありがとうございます！そう言っていただけるととても嬉しいです！これからも頑張って執筆致しますのでよろしくお願い致します！ (2020年6月19日 20時) (
レス) id: 62dfa2fa96 (このIDを非表示/違反報告)
りょうこ - 好きな作品なので、いつも楽しみにしています！3人ともカッコイイので、続きが待ち遠しいです！ (2020年6月19日 0時) (レス) id: ba306ee394 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：nanase。 | 作成日時：2020年4月11日 1時
