第五十話 ページ50
「降りるぞ」
「･･････ちょっ、」
先に焚き火が用意されている浜辺へ降りていった杉先生達を追掛けようと起き上がるために身体へ力を入れた瞬間、フワッと身体が宙に浮いた。
ブランケットを被っているとはいえ、ずぶ濡れな私を高杉が横抱き、いわゆるお姫様抱っこをして漁船から降ろして焚き火がある処まで運んでくれた。
私の所為で高杉の制服が少し濡れてしまったことに申し訳なさを覚えつつ、端的にありがとうと伝える。
すると、杉先生に視点を変えて私の側を離れた。
「先生がお酒を飲んだ辺りにはしのび川が流れています。川の流れはおよそ時速三キロ。約四時間で東京湾に流れ着きます。潮の流れと今日の風向きからしてこの辺りの海域に辿り着くとすぐ見当がつきました」
「あぁ･･･････」
高杉のとんでも発言に驚くばかりの杉先生。
力無い頷きに高杉は話を続けた。
「今からなら六時間目に間に合いますよ。それとAはこのまま病院に連れて行きますので今日は欠席でお願いします」
「いや、それくらい自分で――」
最後に出た言葉へ驚きを示しつつ、やんわりと否定をしようとした。
けれど、言葉を言い終える前に三人組の表情が何言ってんだコイツと雰囲気で物語っている。
確かに私は今、高熱で歩くのもたどたどしい。
なんだかもどかしいけれど、仕方無いとその先の言葉を飲み込んだ。
そして、
「高杉、入江、吉田君、･･････ごめんね」
と、ずっとつかえていた痼りを吐き出す様にこの間の音楽室でのことを謝罪した。
「この間はごめん」
再度、頭を下げて不思議そうな顔をしている三人に謝った。
すると、何のことを言っているのか判った瞬間なんとなく気まずい空気が辺りを流れる。
「まぁ、俺らも俺らだったから気にすんなよな、･･････A」
「そうだね。僕もごめん･･････Aちゃん」
視線を逸らしつつも最後はしっかりと私の眼を見て笑ってくれた二人。
さり気なく変わった呼び方に親睦を感じつつ、最後に窺う様な目つきで高杉を見た。
「･･････病人は静かにしてろ」
「全く、素直じゃないね高杉君は」
「高杉、大人げね」
「うるさい。――早く病院に行くぞ･･････A」
そう言って再度横抱きにして車まで運んでくれた高杉。
素直じゃない高杉に微笑し、私はそのまま高杉の膝の上で意識を手放した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
nanase.(プロフ) - りょうこさん» こんにちは。この度は本作品をお読みいただき誠にありがとうございます！そう言っていただけるととても嬉しいです！これからも頑張って執筆致しますのでよろしくお願い致します！ (2020年6月19日 20時) (
レス) id: 62dfa2fa96 (このIDを非表示/違反報告)
りょうこ - 好きな作品なので、いつも楽しみにしています！3人ともカッコイイので、続きが待ち遠しいです！ (2020年6月19日 0時) (レス) id: ba306ee394 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：nanase。 | 作成日時：2020年4月11日 1時
