第四十九話 ページ49
「全然進まないよぉ〜」
「もう･･････って冷たっ！」
必死にオールで漕ぐ杉先生を目の前に肩を抱いて少しでも暖を取れる様にする私。
けれど、小舟は進むことも後退することもなく波に乗って居場所を探すように彷徨っている。
どうしたものかと考えていれば、足下から何故かヒンヤリとした感覚が身体に伝わってきた。
なんだなんだと視線をその根源へ移すと、そこには小さな穴から海水が漏れて船内に入り込んできている様子が目に映った。
そんな私の反応を見ていたのか、ソレを見るやいなや慌てふためく杉先生。
「うぇぇ！！ちょ、A場所変わって！」
そう先生に頼まれればゆっくりと船体が揺れないように杉先生と場所を変わる。
そして、一生懸命手で海水を掻き出してくれる杉先生。
真冬の海水を直接手で触ればどれだけ冷たいかは勿論考えずとも判る。
それなのに一生懸命になってくれている杉先生に少しばかり感動を覚えた。
「ちょ！」
けれど、大仰な素振りで掻き出すため、船体は小刻みに揺れる。
肩を抱いていた手を放し、船体の縁に両手で掴まってバランスを取る。
「先せ――」
そんな先生に注意をしようとしたその瞬間、バランスを崩してしまった先生。
先生の名を呼ぼうとした時には時既に遅しと私達は一緒に海の中へと落ちていった。
＊ ＊ ＊
「･･････と･･････と！」
ただでさえ頭痛がする頭に耳元で大声が聞こえ、肩を力強く叩かれる。
痛みと騒音にゆっくりと目を開けると、私のことを心配そうな表情で覗き込むように見ている見知らぬおばさんが目に映った。
けれど風邪を引いていた状態の中、真冬の海に浸かったせいか身体の怠さは増して酷く重たい。
「ちょっと大丈夫かい！アンタ！」
「大丈夫かA！先生全く役に立たなくてごめんな！！」
「A」
騒がしい二人をおいて、一際凜とした声が私の名を呼ぶ。
その声のする方へゆっくりと視線を向ければ、そこには居るはずのない高杉の姿があった。
そして、よくよく見れば入江と吉田君もいる。
「熱は」
そう言って私の側へ来て屈んだ高杉の手のひらが額にのせられる。
私の風邪のことを知っているということはきっと高須辺りから滝先生か久坂あたりに話が回ったのだろう。
「たか･･････すぎ――」
「･･････高いな。――コレを被ってろ」
私の声に合わせて静かに立ち上がり、上からブランケットを掛けてくれた高杉。
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nanase.(プロフ) - りょうこさん» こんにちは。この度は本作品をお読みいただき誠にありがとうございます！そう言っていただけるととても嬉しいです！これからも頑張って執筆致しますのでよろしくお願い致します！ (2020年6月19日 20時) (
レス) id: 62dfa2fa96 (このIDを非表示/違反報告)
りょうこ - 好きな作品なので、いつも楽しみにしています！3人ともカッコイイので、続きが待ち遠しいです！ (2020年6月19日 0時) (レス) id: ba306ee394 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：nanase。 | 作成日時：2020年4月11日 1時
