閑話 ページ32
『助けてくれなかったじゃないか』
これはいつの日か、影住Aがヒーローに向かって放った言葉の一つ。
救われなかった哀れな子どもの無駄吠えである。
￣￣
影住
￣￣￣￣
平凡な、それでいて大切な日々だった。
それなりに裕福な家庭に生まれ、あたたかい家族と良き友人達に囲まれて。
当時の俺は、本当に恵まれていたのだと心から思う。
しかし幸福はそう長く続くものではないし、負があるからこその楽なのだろう。
俺の幸せは突然打ち砕かれた。
多数のヴィランと多数のヒーローとの戦闘に巻き込まれてしまったのだ。
卑劣な犯罪組織の手によって、俺の愛した日々は殺された。
愚劣な犯罪者によって、俺の右腕は葬られた。
よくあるお涙頂戴の同情話だろう？
実際、同じようなものを何度も繰り返しテレビで目にしていたさ。
可哀想だと思いながらも、何処か他人事としてしか認識していない悲しい物語。
食事をして風呂に入ってベッドに潜り込み夢の中で夜を明かせば、もう記憶に無いような話だ。
俺の日々はそんなものに成り下がった。
因果応報とはよく言うが、となれば俺は前世でとんでもない悪事を働いていたとしか思えない。
そんな風に考えながら、俺は何故か熱のこもったように熱い右腕を抱え込み、呻きながら地面をのたうち回った。
それはそれは痛かったよ。
悶絶なんて言葉じゃ足りないくらいに苦しんだ。
しかしあまりの痛みに失神しそうになりながらも、俺は何とか意識を保持していた。
何故だと思う？
信じていたからさ。
ヴィランと激しい戦闘を繰り広げていたヒーローが、芋虫みたいに転がる俺と瀕死の家族を救ってくれるって。
本当にそう信じていたから、当時の俺は僅かな希望を胸に悲鳴をあげていたんだ。
きっと同じ、平和な日々に戻れるはずだと。
皆が生きて、そして互いに大丈夫って声を掛け合う。
互いに欠けてしまったものを補い合いながら、また家族みんなで暮らすんだろう。
怪我が治って学校に行ったら、おせぇよって友だちにどやされるかもしれない。
思いっきり怪我したとこ殴られて、それで俺はいてぇよって怒鳴りながら笑う。
あぁ、本当に幸福だ。
そんな日々に戻れるなら、今どんな苦痛でも耐えられる気がするよ。
なんて風に思っていたりもした。
まあ叶わなかったから、今ここに"俺"が、"イノセント"があるんだけれど。
￣￣￣￣
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ディちゃん(プロフ) - その轟君を私にくれ (2022年3月13日 22時) (
レス) @page38 id: 7ad8b1babb (このIDを非表示/違反報告)
じぇへな - このほの暗い?ダーク？感がすごくすきです。これからの展開も楽しみに待ってます (2020年1月2日 17時) (レス) id: 31019885e4 (このIDを非表示/違反報告)
にらもやし(プロフ) - おれんじぜりーさん» コメントありがとうございます。これからの展開も楽しんでいただけると幸いです (2019年11月26日 1時) (レス) id: 1d32708f6b (このIDを非表示/違反報告)
おれんじぜりー - 途中から轟が洗脳されてる…いいですね〜笑 (2019年3月10日 14時) (レス) id: 89ff127a12 (このIDを非表示/違反報告)
にらもやし(プロフ) - にあさん» コメントありがとうございます。随分お待たせしてしまいましたが更新しました。よろしくお願いします (2019年2月9日 13時) (レス) id: 1d32708f6b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：にらもやし | 作成日時：2017年11月18日 12時
