閑話 ページ34
ヒーローが退き、家族だった肉塊と焦ったように怒鳴り合う低脳共との気が振れそうなシェアハウス。
しかし肉塊は息絶えていたのだから、俺は個性を使って逃げればよかったと思うのだが、生憎右腕の大怪我と多量の失血で意識が朦朧としていた。
錯乱していたせいもあり、とてもじゃないがマトモな思考が困難になっていた。
『助けて』
だけどねっとりとしたあの感情は、今でもハッキリと思い出せる。
悲しくて絞り出した言葉も、悔しくて噛み締めた血の味も。
怒りで強く握り締めた、ぐしゃぐしゃの右腕の感触も。
『助けて』
全てが総じた失望の涙の温度さえ、詳細に思い出せる。
『何で助けてくれないの』
ただ一人生き残った、虚しい日々の一部として覚えている。
その後の記憶は意識の飛ぶ直前だった為に曖昧だが、救援と合流したヒーロー達が再突入する頃には、もうヴィラン達の姿はなかったと記憶している。
結局逃がしやがった。ほんとウケるよね。
この後もまあよくある展開通りだったから、ざっくりとした話になるんだけど。
俺は2ヶ月近く昏睡状態が続いたが無事に目が覚め、辛いリハビリを経て1年にも近い入院生活を締め括った。
その後。
俺は祖母宅で養生しながら、ただひたすらに事件について得た情報をまとめ続けた。
だからあのヒーロー達が未だにヒーローを続け、ヴィラン達は警察によって捜索が続けられている事を知るのにそう時間はかからなかった。
一方で、当時の状況も明らかになりつつあった。
事件現場となった俺の自宅周辺は大規模な住宅街だったこともあり、かなりの人がそこに密集していた。
ヒーロー達はごく少数だった為に、俺達家族数人を助けるか、多くの周辺住民を助けるかの選択を迫られていたようだった。
厳しい状況での辛い判断だったと彼らは述べている。
社会もそれに同調し、悲しい事件だったと悼んだ。
しかし俺の悲しみは消えない。
また仕方がない理由が出来てしまったな。
これじゃあ責めようにも責められないと？
やれやれ、上手いことやるじゃないか。
確かにあの時の彼等の少数を捨て多数を取る判断は、功利的には間違っちゃいなかった。
むしろ少ない犠牲で多くを救ったのだから、賞賛すら与えられるだろう。
でもそれは"他人事"として見たから言える事だ。
当事者になった俺は、犠牲になる少数はお前らで良かったのにって新聞を裂いた。
左手でわし掴んで、反対側に噛み付く。
憎しみは増していった。
￣￣￣
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ディちゃん(プロフ) - その轟君を私にくれ (2022年3月13日 22時) (
レス) @page38 id: 7ad8b1babb (このIDを非表示/違反報告)
じぇへな - このほの暗い?ダーク？感がすごくすきです。これからの展開も楽しみに待ってます (2020年1月2日 17時) (レス) id: 31019885e4 (このIDを非表示/違反報告)
にらもやし(プロフ) - おれんじぜりーさん» コメントありがとうございます。これからの展開も楽しんでいただけると幸いです (2019年11月26日 1時) (レス) id: 1d32708f6b (このIDを非表示/違反報告)
おれんじぜりー - 途中から轟が洗脳されてる…いいですね〜笑 (2019年3月10日 14時) (レス) id: 89ff127a12 (このIDを非表示/違反報告)
にらもやし(プロフ) - にあさん» コメントありがとうございます。随分お待たせしてしまいましたが更新しました。よろしくお願いします (2019年2月9日 13時) (レス) id: 1d32708f6b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：にらもやし | 作成日時：2017年11月18日 12時
