8年越しの宿題 ページ8
1年後ーー…
「ただいまー」
「お、Aおかえりー、どうだった展示会？」
「ん、すっごい可愛いピアスあったよ、ヒカル好きそう」
…それは７月、眩しい陽射しの季節
太陽がその威力を増していくにつれて
世界は残酷なほどに輝き
今この瞬間も誰かの心に巣食っているであろう翳なんて
光で真っ白に飛ばしてしまいそうなーー…
…そんな日々が、続いていた。
午前中の取材を終えた私はバタバタと事務所へ戻り、
冷たいお茶で喉を潤そうと、給湯室へと向かった。
「…あ」
「ん…帰りか？」
「…はい、アクセサリーの展示会で。午後もう一件あるんで、書くのは夜になっちゃいますけど」
「明日でいーよ、まああんま根詰めんな」
…立ったままコーヒーを飲んでいた社長はそう言って笑うと、
そのまま私の横をするりと抜けて立ち去った。
“俺、好きみたいだわ、お前のこと”
唐突に言われたのは、先週のことだった。
帰りがけ たまたま駅まで一緒になって、
人混みの中 歩いている途中に、さらりと彼はそう言った。
…バツイチで、きっと若い頃は散々遊んで
もう恋愛なんて興味がないのかと思っていた。
“脈ないんだったらサクッと諦めるから言ってくんない？ あ、当然仕事のこととか一切気にしなくていいから”
…若い頃は散々遊んで酸いも甘いも経験したであろう彼は
今はとても落ち着いた大人で
独立して苦労しながら小さな事務所を軌道に乗せて、
10人と少しの社員を養って
一見ドライだけど多分とてもシャイで
頭が良くて結構かっこよくて、
あたたかい…人だった。
“ごめんなさい”
…横並びに歩きながら、私は少し頭を下げて謝る。
“社長のことはとても頼りにしてるんですけど”
“うわ、やめろその手のフォローは”
彼は笑った。
フォローしているつもりなんてなくて、
なんなら、こうして歩きながら行き交う人たちとぶつかりそうになるのをさり気なくフォローしてくれる彼に
かつての私だったら思わず寄り掛かってしまったのではないかと思ったりもするのだけれど。
“…まだ、私にはやることがあるんです”
…まだ、やることが。
…そう言って私は胸のネックレスを、ぎゅっと握った。
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しいたけ(プロフ) - 完結おめでとうございます。本当に大好きな作品です。どんな終わりを迎えるのか、終わることの恐さもありましたが、穏やかで温かな気持ちで読み終えまして、この作品に出会えた幸せを噛み締めました。ありがとうございます。お疲れ様でした！ (2020年10月12日 19時) (
レス) id: 6cdb312904 (このIDを非表示/違反報告)
みほ(プロフ) - 完結おめでとうございます！ずっと最終話を楽しみにしていました！たまごさんの文学のように作り込まれた世界観や表現が大好きです（ ; ; ）また1話から読み直そうと思います。お疲れ様でした！ (2020年9月24日 10時) (レス) id: 31e8afe04b (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 完結おめでとうございます！これほどまでに壮大なスケールの夢小説に出会ったのは初めてでした。いくつもの糸が絡み合ったストーリー、どうやってエンディングを迎えるのか、ずっとドキドキしながら読んでました。今はしばらく余韻に浸っていたい気分です。 (2020年9月24日 1時) (レス) id: 64389dcac8 (このIDを非表示/違反報告)
やなこ。(プロフ) - 完結おめでとうございます！ (2020年9月23日 16時) (レス) id: 779424fc05 (このIDを非表示/違反報告)
みんと(プロフ) - たまごさん完結おめでとうございます。嬉しい反面読み進めるワクワクが無くなる寂しさも感じています。何度も何度も読み返したくなる大作だと思いました。これからもたまごさんの書く作品に期待しています。本当にお疲れ様でした。 (2020年9月23日 1時) (レス) id: f635eadff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年6月4日 1時
