老婆の告白【青】３ ページ28
「…エイ子さん」
「ーー…」
「はは、ごめんな、お昼寝しとったのに」
「ーー…」
「ずっと言うてたでしょう、咲いたら教えてねって」
…いつからか私のことを“エイ子さん”と呼ぶようになった彼は
横たわる私に、そっと手を差し伸べて
…この子の手は、最初に握手した日からずっと、ずいぶんと温かくて
よろよろと、重い身体、歩く私の肩を支えて、
ある寒い日、
手をかけて整えられた、
あの庭の奥まで連れて行ってくれる
「…綺麗ねえ」
「ん…、僕初めて見たけど、こんな花なんやね」
咲いた、紫
膨らみかけた、ピンク、開きかけの白、白、白
シクラメンの花ーー…
「…むっちゃ愛されてたんやなあって、エイ子さん」
「え…？」
「さっきこれ咲いとるの見つけた時、思ったんよ」
“…僕も前な、好きな子喜ばせたくて、でもお金あらへんかったからなあ、紙でお花作ったことあったんよ、ははは”
“…綺麗なもん見て、それを誰かに見せたいって思うのんて、めっちゃ愛やんなあ”
“たとえもう会われへんくなっても、自分がどんなふうに変わっていっても、そこにあったもんは確かやなあ思うわ”
…ある寒い冬の日
幻の庭は 私がいつか朽ちてまた枯れ果てようとも
その時、永遠を手にしました
ーー…
「ほんなら、また金曜日」
「はい、…あ、安田くん、何かお礼をさせてもらえないかしら」
「ん…？ ああ、ええよ、僕今日神様にご褒美もらったとこやから」
「え…？」
「さっき言うた、ずっと好きやった女の子からの手紙」
「あら…それはそれは」
「今幸せなんやって。やから僕も頑張らなー、思うて」
そう言って“ばいばい”と手を振って、すっかり日が暮れた道を歩き始める彼を見送る。
その背中はとってもたくましくて、
まだ若い彼がこれから歩いていくであろう道の、その頼もしさについて想う。
…振り返ると、私とあの人が暮らした家が、
暖かい色で、私を包み込んだ。
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しいたけ(プロフ) - 完結おめでとうございます。本当に大好きな作品です。どんな終わりを迎えるのか、終わることの恐さもありましたが、穏やかで温かな気持ちで読み終えまして、この作品に出会えた幸せを噛み締めました。ありがとうございます。お疲れ様でした！ (2020年10月12日 19時) (
レス) id: 6cdb312904 (このIDを非表示/違反報告)
みほ(プロフ) - 完結おめでとうございます！ずっと最終話を楽しみにしていました！たまごさんの文学のように作り込まれた世界観や表現が大好きです（ ; ; ）また1話から読み直そうと思います。お疲れ様でした！ (2020年9月24日 10時) (レス) id: 31e8afe04b (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 完結おめでとうございます！これほどまでに壮大なスケールの夢小説に出会ったのは初めてでした。いくつもの糸が絡み合ったストーリー、どうやってエンディングを迎えるのか、ずっとドキドキしながら読んでました。今はしばらく余韻に浸っていたい気分です。 (2020年9月24日 1時) (レス) id: 64389dcac8 (このIDを非表示/違反報告)
やなこ。(プロフ) - 完結おめでとうございます！ (2020年9月23日 16時) (レス) id: 779424fc05 (このIDを非表示/違反報告)
みんと(プロフ) - たまごさん完結おめでとうございます。嬉しい反面読み進めるワクワクが無くなる寂しさも感じています。何度も何度も読み返したくなる大作だと思いました。これからもたまごさんの書く作品に期待しています。本当にお疲れ様でした。 (2020年9月23日 1時) (レス) id: f635eadff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年6月4日 1時
