老婆の告白【青】２ ページ27
「じゃあまた金曜に。暑いですからちゃんとクーラーつけて寝てくださいね」
「はい、ありがとう」
ヤマネさんと安田さんは時間通り、玄関先できちんと頭を下げて帰っていく。
私は、その背中が見えなくなるまでいつまでも見送る。
「ーー…」
…振り返ると、静かな、家
今日はお二人いらっしゃったから、いつもよりも一層のこと
ひとりになった夕暮れの部屋は、暗くて、しーんと静かで
テレビでもつけて、作ってくださったお夕飯を食べようかと、
思った、とき。
…ピンポーン
誰かがこの家の呼び鈴を、鳴らす音が聞こえた。
…
「…あら、お忘れものかしら」
「いえ…ちょっと気になってもおて…」
戻ってきたのは、安田さんおひとりで
「…ほんまは庭の手入れ、して欲しいんちゃうかなって」
「え…」
「ずっと外見てはったでしょう、僕らが家事しとる間」
そう言って、その男の子は、にっこりと笑った。
“生活援助の中には含まれへんらしいから、バレたら僕怒られてまうんで内緒にしてもらえますか”
…うちには、6坪ほどのお庭があって
タダシさんはずっとその手入れを趣味にしていた
四季折々、楽しめるように幾重にもいろんな植物を植えてくれて
台風が来る前の晩は二人でできる限りの備えをして
“エイ子、シクラメンが咲いたぞ”
まだ眠っている私を嬉しそうにそう言って揺り起こして
子どものいない私たちにとって、それは、
二人が暮らす日々の象徴だったーー…
「…安田さん、いいのよそんなにしなくて」
「んー、いや、きっと大事にしてきたんちゃうかなあって、ここ」
…荒れ果てた庭
草木の境目を曖昧にして重なる、緑と茶色
しゃがみ込んで雑草を抜く後ろ姿、
懐かしさに、涙が出そうだった。
…それから、彼は来るたび、少しずつ庭の手入れをしてくれるようになって、こっそりと
ヤマネさんが外れて、一人で来るようになると、堂々と。
「そこはね、昔は彼岸花を植えていたんじゃないかしら」
「あ、ほんま？ ほんなら今度球根買うてこよかな」
…私の記憶を頼りに、彼はかつての庭を蘇らせていく
幻の庭を
…朝起きて一番にすることが、庭に面した窓を開け、深呼吸をすることに変わった。
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しいたけ(プロフ) - 完結おめでとうございます。本当に大好きな作品です。どんな終わりを迎えるのか、終わることの恐さもありましたが、穏やかで温かな気持ちで読み終えまして、この作品に出会えた幸せを噛み締めました。ありがとうございます。お疲れ様でした！ (2020年10月12日 19時) (
レス) id: 6cdb312904 (このIDを非表示/違反報告)
みほ(プロフ) - 完結おめでとうございます！ずっと最終話を楽しみにしていました！たまごさんの文学のように作り込まれた世界観や表現が大好きです（ ; ; ）また1話から読み直そうと思います。お疲れ様でした！ (2020年9月24日 10時) (レス) id: 31e8afe04b (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 完結おめでとうございます！これほどまでに壮大なスケールの夢小説に出会ったのは初めてでした。いくつもの糸が絡み合ったストーリー、どうやってエンディングを迎えるのか、ずっとドキドキしながら読んでました。今はしばらく余韻に浸っていたい気分です。 (2020年9月24日 1時) (レス) id: 64389dcac8 (このIDを非表示/違反報告)
やなこ。(プロフ) - 完結おめでとうございます！ (2020年9月23日 16時) (レス) id: 779424fc05 (このIDを非表示/違反報告)
みんと(プロフ) - たまごさん完結おめでとうございます。嬉しい反面読み進めるワクワクが無くなる寂しさも感じています。何度も何度も読み返したくなる大作だと思いました。これからもたまごさんの書く作品に期待しています。本当にお疲れ様でした。 (2020年9月23日 1時) (レス) id: f635eadff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年6月4日 1時
