対岸の青【青】２ ページ14
…私たちは
川を挟み、真っ直ぐに向かい合っていた
横なぶりになった雨が容赦なく打ち付け
茶色く濁った川は意志を持ったように私たちの間に立ちはだかり流れていた
脳に響くような轟音
それはむしろ、
完璧に音を失くした世界のようだった。
“…ヒカル、教えてほしいことがあるの”
…あの時なぜ、咄嗟に私は彼女に
大学で福祉の勉強をしていたという彼女に
どうして急に、あんなことを頼んだのかわからない
「ーー…」
…こんな状況での再会を、予感していたというのか
私は、じっとこちらを見つめる彼へと向かい、
降り頻る雨の中
ゆっくりと右手をあげるーー…
「ーー…」
人差し指で自分を指し…
手のひらを上にヤスくんへと向ける…
身体の横で“く”の字に開いた右手を…
胸元に引きながら、指を合わせ…
上へ向けた両手のひらを下に動かしながら、
親指と中指をくっつけるーー…
“私は”
“あなたのもとへ”
“戻ってきた”
ーー…
霞む雨
こちらをじっと見つめ立ち尽くす10メートル先の彼
「ーー…」
轟音
完璧な静寂
自分の頸動脈があらん限りの血液を送る音がするーー…
「っ…ーー、」
…彼が
ヤスくんが、一歩、こちらへと踏み出すのが見える
ぐにゃりと
スニーカー
ああ、昔から履いているあの白い…
ぐにゃりと泥に沈み込みながら、一歩、また一歩、
彼の爪先がばしゃんと川の中へ踏み込むーー…
「ーー…っ、」
川底の石を踏みしめながら、一歩、また一歩彼は濁流に構うことなく
たちまち膝まで飲み込まれ身体が揺らめく、危ないーー…
「ーーっ…、」
ーー…私も踏み出す、もう全身はとっくにびしょ濡れで
スニーカー、勢いよく跳ねた水がまた私の首を濡らす
足先で川底を探る、身体を強張らせながら
歩く、
歩く、３メートル、２、流れてくる水が私の腰を打ち跳ね返る纏わり付く服が重い、
もうほとんど濁流に呑みこまれた中洲を超えた彼、濡れた前髪が張り付き瞳は見えない
それでも真っ直ぐにこちらにその手を伸ばし私も、
手をーー…
ーー…その時私はぬるりと足底を滑らせ
あ、
転ぶーー…
ーー…
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しいたけ(プロフ) - 完結おめでとうございます。本当に大好きな作品です。どんな終わりを迎えるのか、終わることの恐さもありましたが、穏やかで温かな気持ちで読み終えまして、この作品に出会えた幸せを噛み締めました。ありがとうございます。お疲れ様でした！ (2020年10月12日 19時) (
レス) id: 6cdb312904 (このIDを非表示/違反報告)
みほ(プロフ) - 完結おめでとうございます！ずっと最終話を楽しみにしていました！たまごさんの文学のように作り込まれた世界観や表現が大好きです（ ; ; ）また1話から読み直そうと思います。お疲れ様でした！ (2020年9月24日 10時) (レス) id: 31e8afe04b (このIDを非表示/違反報告)
くるみ(プロフ) - 完結おめでとうございます！これほどまでに壮大なスケールの夢小説に出会ったのは初めてでした。いくつもの糸が絡み合ったストーリー、どうやってエンディングを迎えるのか、ずっとドキドキしながら読んでました。今はしばらく余韻に浸っていたい気分です。 (2020年9月24日 1時) (レス) id: 64389dcac8 (このIDを非表示/違反報告)
やなこ。(プロフ) - 完結おめでとうございます！ (2020年9月23日 16時) (レス) id: 779424fc05 (このIDを非表示/違反報告)
みんと(プロフ) - たまごさん完結おめでとうございます。嬉しい反面読み進めるワクワクが無くなる寂しさも感じています。何度も何度も読み返したくなる大作だと思いました。これからもたまごさんの書く作品に期待しています。本当にお疲れ様でした。 (2020年9月23日 1時) (レス) id: f635eadff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2020年6月4日 1時
