昔話のできごと【紫】 ページ6
その日は、暑かったーー…
夏は終わったんじゃなかったのか、ぶり返したように日射しは強く
古本屋さんでアゴタ・クリストフの『悪童日記』を買い、あの公園で読んでいた私は
夢中になりすぎて水分も摂らず、ベンチから立ち上がった時
視界が狭まる、
真っ暗になるーー…
ぐわんと
地面が歪んで重力の方向性を見失い
膝から、崩れ落ちた
ーー…
「ーー…い」
ーー…
「…おい！」
「ーー…」
…気がつくと
ベンチに横たえられた私
目を開けると 覗き込む顔
首筋にひんやりとした感触
…ああ、
あの人だーー…
「…み、ません」
「びっくりしたわー、休憩しよう思って来た途端倒れよるから…」
手首
脈を取られていて…
“ほら、飲めるか？”と言ってその人は私の首筋にあてていた飲み物を差し出し
起き上がろうとする私を“ゆっくりでええから”と制した。
「…見たとこただの貧血やと思うけど、なんか持病とかある？」
「…いや、多分そうだと思います」
謝りながら私はゆっくりと起き上がる…
びっくりした、貧血で倒れるなんて高校生の時以来だった。
「あかんでー？ 夏場は自律神経やられることも多いんやから、ちゃんと水分摂らな」
…目の前に、しゃがみ込んで視線を合わせながら笑う…
「…先生みたいですね」
「ん？」
「…学校の、先生みたい」
…言いながら私は隆平さんのことを想い出すーー…
「おん、せんせーやで？」
「ーー…」
「学校やなくて医者のほうやけどなあ。そこん裏手の病院のただの勤務医やけど」
…裏手
見るとそこには、白地にピンクの文字
心療内科の看板がーー…
「…あ、今こんなデリカシーのない奴が思ったんとちゃう？」
「いえ、そんな…」
だからか…
また顔を皺くちゃにして笑うその姿に
不思議と話し易い理由が、腑に落ちた瞬間だった。
「…あの、何かお礼を」
…漸く立ち上がれるようになり、大人しく家に帰ろうと
３m進んだところで、見送る彼を振り返り声を掛けると
「ぶはは！ 日本昔話か」
「え…」
「弱っとる生きもん助けて“何かお礼を”ゆうんは昔話の世界の話やろぉ？ こちとら助けるんの専門家やもん」
「でも…」
「ん、ほんなら、元気なったらお好み奢ってや」
追い払うための冗談みたいな口調でそう言い
“ほら、行き”としっしと右手で追い払う彼にーー…
私はこの時点で既に、甘え始めていたのだと思う。
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たまご(プロフ) - okmrernさん» あ、なんか途中で送信しちゃったごめんなさい…！引き続きよろしくお願いします！ (2020年6月2日 17時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - okmrernさん» okmrernさま、お久しぶりですありがとうございます！ここまでされても私はこの村上信五とつきあいたい (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさま、お久しぶりですありがとうございます！ラスボスは一番そばにいるということでひとつ…！ (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぐふ。さん» ぐふ。さま、初めてのコメントうれしいですー！！信五最強説です…！そしてビリヤード！素敵ですねそれ…ただ友達がいる設定にしてしまったなあの店員さん…… (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ゆき姉さん» ゆきえさん！コメントありがとうございます嬉しい！ほんとしんどい話でごめんなさいね…いつもありがとうございます！ (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2019年8月18日 23時
