陰翳の果実 最終楽章

窓辺の犬【紫】 ページ23

「でね、そのヒカルちゃんて子、信ちゃんにちょっと似てると思って」


「うわぁ、俺やったら嫌やな…俺に似とる女」


「ふふ…でもすっごくいい子だよ、口悪いけど優しくて面白くてね、割とうちの近所に住んでるみたい、Twitterのフォロワーはたくさんいるのにインスタはやってないんだって」



あれ以来、いろんなお店に連れて行ってくれるのに水曜は決まってあの定食屋さんで

毎日アレンジの違う髪型を見るのも楽しかった


半年くらい前に別れて以来恋人はいないらしく

今はお相撲にハマっているという話をしてくれた




「…A」


「ん？」



「よかったな、友達できて」


「…うん」



…私が俯いて笑うと、彼は左手でよしよしと頭を撫でる。


私が生きた今日という一日は 彼によって幻ではないことを保証される



小さい頃、台所に立つ母親にその日の出来事を順番に話したように


…私がかつて、洗濯物を畳みながらあの人の話を聞いていたように。




「…信ちゃん」


「なんや」



「…好きだよ」


「おう、知っとるで」



ソファの座面で体育座りをしていた私は、“なんやねんもぉ”と苦笑する隣の彼に横から勢いよく抱きつく


バランスを崩しソファに倒れる彼の上によじ登り


私はざらりと髭の生えた顎をべろりと舐めるーー…




「…犬かお前は」


「ふふふ…うん」



…呆れたように見上げるその表情も好きで


私は笑いながら、嫌がる彼の顔にしつこく舌を這わせる




「ーーっ、」


ふと、後頭部を掴まれーー…



引き剥がされる顔




「…犬やったら犬らしくしたるわ」



そう、真下から射抜かれーー…




「きゃっ…」


腹筋


瞬時に起き上がる彼に私はソファから落とされる



「やっ…、」


「ほれ、手ぇ付いてケツ上げ」


素早く背後に回りスカートをたくし上げられ

さっきまで座っていた座面に私は両手を付く…



「あ…、」



彼が、乱暴に私の腰を掴んで引くから


私の背中は弓のようにしなるーー…




「やっ…信ちゃ…」


「犬やろ？ 口きいたらあかんがな」


「ーー…っ、」




彼がお尻をぱしりと叩く


淡々とした強い声


ソラが怯えたようにじっとこちらを見ているのが左目にちらりと映るーー…




「あっ…ーー、」


「…なんやもうびっしょびしょやん、入れて欲しかったら腰振らな」



ソファの後ろには開け放ったままのカーテン


その暗い窓ガラスには容赦無く


従順な犬の姿が反射していたーー…

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