二度目の休息【紫】 ページ3
『春と修羅』第一集から始まるその本は
鮮烈な言葉で世界を切り取っていた
…私は、かつて喫茶店で働いていた頃よく行っていた公園のベンチに座り
茶色く煤けたその本のページをめくる
“わたくしという現象は”
“仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です”
書き出しの二行で
天才、だと思った
紛うことなき天才…
誰の借り物でもない言葉で
彼にしか見えていない世界を
…私の心は打ち震える
…何かに心を動かされたのは随分久しぶりのことのような気がした。
「そっち行くでー！」
「ぎゃはは、ちょっと待ってー！」
小さな公園の広場では、真ん中で大人と子どもがサッカーボールを蹴り合っていた
その声が夕暮れの空に響く中ーー…
私はただ言葉たちに耽溺する
長い間空っぽだった身体に沁み込んでいくような
意味を置き去りに言葉の響きだけが頭の中を駆け抜けていく
「ほら５時んチャイム鳴ったで！ 自分帰らなかんやろ」
「村上くんはー？ 仕事戻らなくていいのー？」
「俺今日休みやもん！」
慌ただしい大声でのやりとりに見向きもせず
夏の名残、まだ明るさを残す空の下、私はひたすらページをめくり続ける
「じゃーねー！」
「気ぃつけて帰りやー！」
…どうやら声の主のうちの一人、大人の方がすぐそこにある自動販売機で何かを買った音がした。
ベンチの中央に陣取っていた私は、顔を上げぬまま申し訳程度に席を詰める。
それに気づいたらしきその人は、私の対極に腰掛け何かを飲み、「ふーっ」と息を吐いた。
ちょうど私が「休息」というタイトルの詩に差し掛かったところだった。
“そのきらびやかな空間の”
“上部にはきんぽうげが咲き”
“(上等のbutter-cupですが)”
“(牛酪よりは硫黄と蜜とです)”
…すごいな、全然意味がわからない。
くすりと笑った瞬間
「…よっしゃ」
…小さな声が聴こえた。
…その人は立ち上がり、今度は一人でリフティングの練習を始めたようだった。
小さな公園で、リフティングの練習をする大人と、本を読み続ける大人。
…とん、とん、とん、とボールを蹴り上げる音が、賢治の言葉のように心地よく耳に響いていた。
…
とーん。
どれ位の時間が経ったのか
瞬間、ロングトーンの音が響くーー…
“っしゃ” と小さな声が遅れて聴こえる
ちょうど今度は『春と修羅』第二集の「休息」を読み終えたところだった私は
…その時、思わず顔を上げた。
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たまご(プロフ) - okmrernさん» あ、なんか途中で送信しちゃったごめんなさい…！引き続きよろしくお願いします！ (2020年6月2日 17時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - okmrernさん» okmrernさま、お久しぶりですありがとうございます！ここまでされても私はこの村上信五とつきあいたい (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさま、お久しぶりですありがとうございます！ラスボスは一番そばにいるということでひとつ…！ (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ぐふ。さん» ぐふ。さま、初めてのコメントうれしいですー！！信五最強説です…！そしてビリヤード！素敵ですねそれ…ただ友達がいる設定にしてしまったなあの店員さん…… (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ゆき姉さん» ゆきえさん！コメントありがとうございます嬉しい！ほんとしんどい話でごめんなさいね…いつもありがとうございます！ (2020年6月2日 17時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2019年8月18日 23時
