二人の彼女 ページ9
体育館脇の水道勝手に借りて、俺たちは泥を洗い流す。
「…はい」
彼女が放り投げてきたのは、あの「シルエットが綺麗だから買った」Tシャツやった。
建物の中からは、部活の…バスケかな…
重いボールが跳ね 鈍く走る足音が漏れ聴こえてくる。
…とても穏やかな春休みの学校やった。
流しの横に靴を天日干しして。
「…せっかくだから教室行ってみよう」
彼女は俺の手を引き、しん、と静まり返る校舎の中へ誘い込む。
ーー…どこも学校って、こんな感じやなあ。
人のおらん廊下はひんやりとしていて…
初めて訪れる者にさえも、時間軸を歪ませてゆく。
俺はまるで彼女に想いを寄せる中学生のように 闇雲な切なさを募らせながら
「２−２」と書かれた教室に滑り込んだ。
「…たぶん私の席、ここだった」
彼女が窓際から３つめ、一番後ろの席に座る
椅子を引く音、その金属音。
俺は大きな黒板の前の教壇に立ち、今度は教師となり
その姿を眩しく見守る。
「この席から、写真撮ったの」
「…テスト時間中にね、みんなが必死で答案向かってる背中と、あくび噛み殺してる先生がおかしくて。どうしても撮りたくなっちゃって」
「そーっとシャッター切ったんだけど、音がうるさくて、ばれちゃった」
彼女はそこから、きっと当時と同じフレームで…
教壇に佇む、俺を撮った。
「…なんも、変わってへんやん」
「…何も変わってないし、別人みたいだよ」
それから彼女は、一度大きな伸びをして
「ここであなたを撮れてよかった。ありがとう」
カメラを置き、「トイレ」と言い残し足早に教室を出る。
…再スタートの、儀式やったんやろうな。
彼女の決意は、あまりにさりげなく、きっと今 固まったーー…
……
教室に残された俺と、机の上の古いカメラ。
俺はその席に座る、中学生の彼女の幻を見る。
まだ何者でもなかった田舎の少女が 衝動だけを抱えて世界に挑もうとする姿を。
ーー…そのまま、行け。
俺はその少女にエールを送る。
さっき俺たちが互いに送りあったように。
幻の彼女にも、エールを送る。
世界はやさしくないかもしれないけど。
いっぱい傷つけるもので満ちあふれてるやろうけど。
お前の進もうとしとる道は、かっこええから。
ーー…迷わず、行け。
二人の彼女へ。
しなやかに、未来を生きていけるように。
……俺は。
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たまご(プロフ) - miyu1129320さん» 初めまして、コメントありがとうございます。黄担の方にそんな風に仰って頂けるとすごくすごく嬉しいです。彼は私が一番書きやすいメンバーなので、ほんとは永遠に彼を書いていたいです笑。今後ともよろしくお願いします！ (2019年9月5日 4時) (
レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - しずくさん» しずくさんお返事遅くなってごめんなさい！私にとって特別な作品なので読んでくださってうれしいです^ ^ この二人は書いててすごく楽しいので、今後も少しずつ続けられたらなと思っています。今後ともよろしくお願いします！ (2019年9月5日 4時) (レス) id: 8c4f156e76 (このIDを非表示/違反報告)
miyu1129320(プロフ) - はじめまして。10年間黄色eighterさせてもらっている高校三年生の女子です。ひさしぶりに占ツクを読みましたが、もう書く文章が大好きすぎて底までハマりました。。。亮ちゃんの考えそうなことや言動行動がそのまま文になっていて、、本当に素晴らしかったです。 (2019年9月4日 23時) (レス) id: ce64f6c53c (このIDを非表示/違反報告)
しずく(プロフ) - 今さらながらこちらの小説も読ませて頂きました！感想を上手くコトバにできませんが、たまごさんが書く小説が本当に大好きです。本編では二人に感情移入しポロポロと涙し、その後の番外編では二人の子供にほっこりじんわりさせられ…今後も楽しみにしていますね。 (2019年8月4日 13時) (レス) id: 298df3e651 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ボラリップさん» ボラリップ様、ご無沙汰してます！素敵なコメントありがとうございます^ ^私もこのカップル？夫婦？は自分の作品の中で一番思い入れがあるので、またいつか機会があったら書きたいですね…。ページいっぱいになってしまいましたが笑。今後ともよろしくお願いします！ (2018年12月25日 4時) (レス) id: 42d81ca1be (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：たまご
| 作成日時：2018年3月2日 10時
