知らなかった街 ページ35
「…おはよう」
「夏休みだからって何時まで寝てるの…もうお父さんとっくに仕事でかけたよ」
階段を降り、のろのろとリビングに顔を出した私に、母親が言う。
久しぶりに帰ってきた娘を甘やかしてくれたのはせいぜい最初の三日で、そのあとは働かざるものなんとやら、という家訓の通り、あれこれと用事を押し付けられ…
「…ごはんは？」
「そっちにさっき私たちが食べた残り物があるから、自分で温めるなりなんなりしなさい」
炊飯器の中のごはんと、このまま火にかけたら小さな鍋の底に具がこびりつきそうなほど水分の減ったお味噌汁と…すっかり冷たくなった干物。
私は不精にも、干物を温めるのに電子レンジを使い、蛇口から出した水をそのままお鍋に足して、火にかける。
…最近、ようやく少し、忘れかけてたのにな……。
久しぶりに会った地元の友達たちに、「やっぱ東京出ると違うな」「地元捨てやがって」と半分冗談でいじられながら、飲めるようになったお酒を飲んだり。
あの頃通っていた、丘の上の学校まで散歩して、こんなに急な坂だったっけと、自分の体力の衰えを痛感したり。
……坂の上から見える海は、きらきらと輝いていた。
私はこれを、当たり前の光景だと思っていたから。
１７の夏からは、坂を駆け下りて、さっさと勉強することしか考えていなかったから。
あんなふうにゆっくり眺めたことなど、なかった気がする。
全然、知らなかったけど。
…いい、街だな。
温めた朝食をダイニングで もぞもぞと食べていると、掃除機の音に負けない声量で、母親が声をかけてくる。
「ちょっとー、あなた暇なんだったら倉庫の整理してくれない？ 人手がある時にお願いしたいのよ」
私はちょうど箸で持っていた、すっかりかたくなった干物を見ながら、思う。
……働かざるもの、食うべからず…。
仕方なく、食器を片付けて、私は倉庫へ向かう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 426人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たまご(プロフ) - あくあさん» あくあ様、本当に、コメントいただけるととてもうれしいんです…一人で不安になりながら書いているので。。。なので是非これからも、お気軽に、「お腹減った」とかでもいいので笑。よろしくお願いします！ (2018年2月4日 23時) (
レス) id: 30c6e5130b (このIDを非表示/違反報告)
あくあ - 嬉しいお言葉!!お話を読んだ後の心に響き残る感動をどうしてもお伝えしたくなって、コメントしてます。いつもお返事を頂けるのでコメントしすぎでご迷惑かな？とも思っていました(((^^;)これからも応援させてくださいね☆ (2018年2月4日 10時) (レス) id: 4e4eb3dcc1 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - ペンギンさん» ペンギン様、いつも本当にありがとうございます！ その後のふたり…というか四人、番外編に書きましたので、ちょっと覗いてもらえるとうれしいです。迷ってばかりですが、今後ともどうぞよろしくお願いします…！ (2018年2月4日 2時) (レス) id: 30c6e5130b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - あくあさん» あくあ様、本当にいつも…頭があがりません、どうもありがとうございます。あくあさんからのコメントがなかったら心折れてたかもしれません笑。今後とも何卒よろしくお願いいます！ (2018年2月4日 2時) (レス) id: 30c6e5130b (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - もチちゃん . 。さん» もチちゃんさま、コメント本当にありがとうございます！ 前作からのつながりが多かったので、初めてお読みいただいて、大丈夫だったでしょうか…今後とも仲良くしてくださるとうれしいです。よろしくお願いします！ (2018年2月4日 2時) (レス) id: 30c6e5130b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たまご
| 作成日時：2018年1月27日 14時
