春の人妻【赤】１ ページ11
世界で一番いやらしいのは、人妻だと思う。
例えば、ご褒美のように、たまにはひとりで出かけてきていいよ、と許された夜に。
女友達と出かけるだとか…
いくつか選択肢がある中で、
なんとなくひとりで、おしゃれをして映画を観たりだとか
日頃のいろんな属性を、いろんな仮面を…
家に一旦置いて、生身の自分で出かけた時に。
「…なんしてん」
たまたま街中で、かつて想いを寄せた人と再会したとして。
普段眠らせているものが、奥底から湧き出るように。
…世界で一番いやらしくなるのは、
人妻だと思う。
「…映画、観てた」
「…ふーん」
春の夜、少し生温い夜。
立ち尽くす私たちと、行き交う人々。
眠らない街に、エアポケットみたいに
…私たちの上にだけ、街灯がなかった。
「……」
積もる話はたくさんあるはずなのに…
次の言葉を、互いに探しながら。
私は咄嗟に左手を隠す。
せめてきちんとした恰好をしてきて、よかったーー…
そのとき、久しぶりに履いた
ソールの赤いパンプスが痛む。
私は彼の前で、左脚をさする。
「…痛いん？」
「うん…」
彼は少し考え、つぶやく。
「…うち、近所やけど」
…知ってる。
…私が知ってることを、あなたも知ってる。
風が吹き、樹々がざわめく。
…雨が降る気配がした。
「…時間あんなら。10分後に来て」
彼は私の返事を聞かず、そのまま歩き出す。
私は脚を休ませようと 植え込み脇の暗がりに座り
深い意味は無いとつぶやいて、指輪をはずす。
…10分と少し経ってから、立ち上がり。
あの頃は、なんなくヒールで歩けた道が、
甘い痛みを伴い、ふらふらと私をいざない…
何食わぬ顔で、辿り着いた部屋のインターホンを鳴らした。
“脚が痛くて”
“雨が降りそう”
“街中で立ち話は危険”
“ただ、なつかしくて”
…自分への言い訳を、いくつも用意しながら。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 992人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まこ(プロフ) - お忙しい中、ありがとうございます。さすがやすばでした。飼い猫云々にときめきました。 (2018年6月25日 5時) (
レス) id: 665cb48fe5 (このIDを非表示/違反報告)
ブルームーン(プロフ) - ありがとうございます…やすば、好き… (2018年6月25日 0時) (レス) id: 12f3ff3be9 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - あくあさん» あくあ様！ここのコメントお返ししてなかったー泣！今回青さんで申し訳ないですが、次はまたどこかで赤さん更新しますねー！ (2018年4月9日 0時) (レス) id: 42d81ca1be (このIDを非表示/違反報告)
あくあ(プロフ) - とんでもないです！こちらこそ楽しませて頂いて感謝です！応援してます☆ (2018年3月28日 16時) (レス) id: 4e4eb3dcc1 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - あくあさん» あくあ様、昔から追っていらっしゃる方からするときっとそうですよね…。でも先輩に読んでいただけていると思うと単純にうれしいです！今後もよろしくお願いします！！ (2018年3月28日 11時) (レス) id: 30c6e5130b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たまご
| 作成日時：2018年1月19日 1時
