波間にゆれる子どもたち【青】

噛み付いた飼い犬【Side青】 ページ27

「うー…頭いったぁ…」

「なんやヤス、二日酔い？ そこまでひどいの珍しいやん」


取材ラッシュのあいま、僕が机に頭つっぷしとったら、気遣ってみんなが声かけてくれるけど、それにまともに答えんのすら億劫で。



ミニAちゃんのことなんて、普段は忘れとったくせに。

ちょーっと飼い犬に手を噛まれたら、こんなむかむかしてまうなんて、僕は器がちっこいなあ…。



「安田さんは犬猫で言ったら犬派ですよね？」

なんて、ライターさんからのどうでもいい質問にも、「んー、どっちも好きですけどねぇ…今の気分で言うたら、猫かもしれないですわあ」なんて返してまう程度に、僕の器はお猪口みたいやった。



帰りがけ、頭痛もだいぶおさまってきたから、僕はさっさとライダース着込んで「お先失礼しまーす」言うてる亮見て、ふと想い出し声をかける。

「なあなあ亮、昨日店長に聞いたんやけど、あん店、行ったん？」



それはほんの些細な、日常会話のつもりやったんけど。

もう帰る方向に身体向けて顔だけ振り返ってた亮が、こっち向き直して、「…章ちゃん、体調悪いとこ申し訳ないんやけど…迎え酒、する余裕ある？」て聞くから。



僕らふたりは場所変えて、ずいぶんと珍しく、サシで飲みに繰り出した。





「ごめんっ……！」

店ついて席座ってとりあえずの一杯目頼んだ瞬間、亮が頭を下げて謝るから驚く。



「…ほんま差し出がましいことしてもうたこと、わかっとるねん。章ちゃんから言われたら、ちゃんと謝らなってずっと思っとった」



僕はさっぱりなんのことかわからんかったけど、そのあとに聞いた話は、僕が想像したことすらなかった、

３年半…いや、初めて会った時から数えると、もう６年とかやんな…。




長い長い、小さな女の子の物語やった。

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