たどたどしい新人 ページ19
「いらっしゃいませー!」
入り口の扉がカラン、と開き、私は思わずクリーニング屋さんのノリで声を発してしまい、慌てて口をふさぐ。
バイト五日目、まだまだ覚えることばかりだ。
ウイスキーに種類があることも、その飲み方がさらにいろいろあることも、私は何も知らない。
それでも、店長さんもお客さんも「初々しくていいね」とやさしく応対してくれるけど、そんな甘えが通用するのはきっと、長くて最初の1か月だろう。
お金をもらっているんだから、と、私はグラスにほこりがつかないよう、丁寧に水滴を拭きながら自戒する。
クリーニング屋さんの店長の奥さんに、「お世話になって申し訳ないんですが、来月いっぱいで辞めさせてもらえませんか」と切り出した時。
すごく怒られると思ったけど、「…まあいいよ、探してた人、見つかったんでしょ」と笑ってくれた。
私がずっと 外ばかり見ていた理由に、とっくに気づいていたんだと恥ずかしくなった。
…大人って、すごいなあ。
私はそれから、後任のバイトさんが決まるまで、せめてもの恩返しのつもりで働き、ようやく先日、晴れてこのバーの新人スタッフとなった。
…ここにいれば、たまにでも、また章ちゃんの顔が見れるんだ。
いつ会ってもお願いできるように、私は常に制服の左胸ポケットに、あの青いピアスをしまっていた。
「こんばんはー!」
「いらっしゃいま…」
声を抑えた挨拶をしながら振り返ると…
……もう、会いたかった顔がそこにある。
私はどきどきしながら、ちゃんとお店の人として応対する。
「…おひとりさまですか?」
「おー、ミニAちゃん、制服似合うやん! ちゃんとやっとるー? あ、えーとね、あとでツレ来るから、個室あいとる?」
章ちゃんはにこにこしながら一気に話す。
「えっと、個室はチャージで別料金いただきますが、よろしいでしょうか?」
「ふはは、たどたどしい説明やな! うん、ええでー」
そう言ってこちらの案内も待たず、勝手に個室に入って行く後ろ姿を見ながら、
何度 運命の扉が閉じても、無理矢理こじ開け続ければ、きっとつながる。
……私はこの時 無邪気に、そんなことを信じていた。
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たまご(プロフ) - まれなさん» まれなさま、コメントありがとうございます!まだ書き始めて3.4ヶ月しか経っていない新米作者ですが、楽しんでいただけているならよかったです…!今後とも何卒よろしくお願いします^ ^ (2018年4月8日 23時) (レス) id: 42d81ca1be (このIDを非表示/違反報告)
まれな(プロフ) - いつもたまごさんのお話楽しみにして読んでます♪ 普通とは違う感じでまるで本当の小説を読んでるような感じがして本当にはまってます!!これからも期待してます!! (2018年4月8日 22時) (レス) id: 77816b1cc4 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - たむこさん» たむこ様、コメントに気づかずレス遅れて本当にごめんなさい!!失礼しました! 励ましていただいてうれしいです…なかなかうまく書けないですが見習ってがんばります! 引き続きよろしくお願いします^ ^ (2018年1月27日 11時) (レス) id: 42d81ca1be (このIDを非表示/違反報告)
たむこ(プロフ) - たまごさん» 先輩作者だなんてとんでもないです(T_T)まだ稚拙な文しかかけない新参者ですので...!これからもご無理のないようにたまごさんのペースで書いてくださいね(^^) (2018年1月22日 16時) (レス) id: 5f35bba986 (このIDを非表示/違反報告)
たまご(プロフ) - たむこさん» たむこ様、うう、有り難いコメント本当にうれしいです。前作は処女作らしく勢いで書けたんですが、今回難しくて悩みながら書いてます…たむこさんのように先輩作者さんたちの偉大さを思い知っております。。。今後ともよろしくお願いします! (2018年1月21日 22時) (レス) id: 30c6e5130b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たまご | 作成日時:2018年1月16日 14時